## キケロの義務について
内容
本書は、古代ローマの政治家、哲学者、そして雄弁家であったマルクス・トゥッリウス・キケロが、晩年、紀元前44年に執筆した哲学的著作です。ストア派の哲学者パナエティオスの説く義務論に基づきながらも、独自の解釈を加え、ローマ社会における実践的な倫理観を提示しています。
背景
キケロは共和政ローマの晩期に活躍した人物であり、その生涯は政治的な混乱と内戦に翻弄されました。晩年には、共和政の擁護者としてカエサルと対立し、政界から引退することを余儀なくされます。こうした状況下で、キケロは哲学、特に倫理学に関心を深め、後世に残る哲学書の執筆に専念しました。
構成
本書は、キケロが息子マルクスに宛てた書簡という形式をとっており、全3巻から構成されます。
– 第1巻:正直、礼節、勇気などの伝統的なローマの美徳と、それらを体現する「decorum」(良識、礼儀作法)について論じます。
– 第2巻:名誉や公益と個人の利益との関係性、政治における行動規範などを考察します。
– 第3巻:義務と快楽が対立する場合の判断基準、正しい判断を下すための知恵の重要性などが論じられます。
特徴
本書はストア派の倫理思想を基盤としていますが、キケロは単にストア派の教義を繰り返すのではなく、ローマ社会の伝統や価値観、自身の政治経験などを踏まえ、独自の解釈を加えています。
意義
本書は古代ローマにおける倫理思想を代表する作品の一つとして、後世の思想家や政治家に多大な影響を与えました。現代においても、普遍的な倫理、政治におけるリーダーシップ、人生における幸福の追求など、様々なテーマについて考えるための示唆に富む古典として読み継がれています。