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キケロの義務について

キケロの義務について

第一巻

第一巻では、キケロは息子マルクスに宛てた手紙という形式を取りながら、人間の行為の基準となる「正直さ」(honestum)について論じています。

まず、人間の自然本性に従って生きるべきだとし、その本性の中に「徳」(virtus)を求めます。徳は、「精神の卓越性」(animi excellentia)であり、その最たるものが理性であるとキケロは考えます。そして、理性に従って生きることは、「自然に従って生きる」ことであると主張します。

次に、正直さ(honestum)と、それに基づく正しい行為(honestum officium)について解説します。正直さには、「知恵」(sapientia)、「正義」(iustitia)、「勇気」(fortitudo)、「節制」(temperantia)という四つの枢要徳が含まれます。

知恵は、真理を探求し、物事を正しく判断する能力です。正義は、各人にふさわしいものを与え、社会秩序を維持する徳です。勇気は、困難や危険に立ち向かう精神力です。節制は、欲望を抑え、理性に従って行動する徳です。

キケロは、これらの徳を具体的な例を挙げて説明し、それぞれの徳がどのように正直さに貢献するかを明らかにします。

第二巻

第二巻では、主に「自分に役立つこと」(utile)と正直さとの関係について考察が進められます。

多くの人々が、自分に利益や快楽をもたらすものを追求しますが、キケロは真の幸福は正直さによってのみもたらされると主張します。そして、一見すると自分に役立つように思える行為が、実は正直さに反する場合があることを指摘します。

例えば、不正な手段で富を得ることは、短期的には利益をもたらすかもしれませんが、長期的には名誉を失墜させ、真の幸福を損なうとキケロは考えます。

逆に、正直な行為は、たとえ一時的に損失をもたらすように見えても、最終的には自分に最大の利益をもたらすとキケロは主張します。正直さは、人々の信頼と尊敬を獲得し、社会における名誉と地位をもたらします。そして、それらは真の幸福に不可欠な要素であるとキケロは考えます。

第三巻

第三巻では、正直さと自分に役立つことが対立する場合に、どのように行動すべきかという問題が扱われます。

キケロは、この問題に対して絶対的な答えを与えることはできません。なぜなら、具体的な状況によって、どちらの選択がより正直さに近いかは異なるからです。

しかし、キケロは、判断に迷った際には、常に正直さを優先すべきだと強調します。そして、具体的な事例を検討しながら、どのように判断すれば良いかを息子マルクスに助言します。

例えば、友人との約束と、より重要な義務が衝突した場合、キケロはより重要な義務を優先すべきだと述べています。なぜなら、真の友情は、互いの正直さを尊重することに基づいているからです。

このように、第三巻では、現実の複雑な状況において、正直さを実践することの難しさと、それでもなお正直さを追求することの重要性が説かれています。

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