## キケロの義務について
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概要
『義務について』(De Officiis)は、紀元前44年にマルクス・トゥッリウス・キケロによって書かれた哲学的論文です。高齢となり、政治的に不遇な立場にあったキケロは、息子マルクスに宛てた書簡という形式で、倫理、政治、そして人生における正しい行動について考察しています。全3巻から成り、ストア派の哲学者パナイティオスの同名の著作(現存せず)を主な参照点としつつも、プラトンやアリストテレスなど、他の哲学思想も取り入れながら、キケロ独自の解釈を加えています。
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内容
**第1巻:** 「善なるもの」(honestum)と呼ばれる道徳的に正しい行為について論じます。キケロは、人間の理性こそが自然の法則であり、道徳の根源であると主張します。そして、知恵、正義、勇気、節制という四つの基本的な徳を挙げ、これらの徳を実践することが「善なるもの」に合致すると説明します。
**第2巻:** 「有利なもの」(utile)に焦点を当てます。キケロは、一見すると道徳と利益が対立するように見える場合でも、真の利益は道徳と一致すると主張します。そして、社会生活を送る人間にとって、名声や人々との良好な関係を築くことがいかに重要かを説きます。
**第3巻:** 「善なるもの」と「有利なもの」が対立する場合にどのように行動すべきかを考察します。キケロは、たとえ不利な状況に陥ったとしても、決して「善なるもの」を犠牲にしてはならないと断言します。そして、歴史上の偉人たちの言行を例に挙げながら、正義と道徳を貫くことの重要性を強調します。
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影響
『義務について』は、古代ローマにおいて広く読まれ、後の西洋思想にも大きな影響を与えました。特に、ルネサンス期以降、人文主義者たちによって再評価され、政治倫理や教育論の古典として、近代政治思想の形成にも貢献しました。