## キケロの弁論術についての思索
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弁論術の目的と理想像
キケロは、プラトンのように弁論術を虚偽を飾るための技術とは考えず、真実を明らかにし、人々の心を動かすための手段として捉えていました。彼は、優れた弁論家は単なる話術の技巧家ではなく、幅広い教養と倫理観、そして人間に対する深い洞察力を備えた人物であるべきだと考えました。
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弁論術の構成要素
キケロは、効果的な弁論を行うために必要な要素として、「発想術」「構成術」「文体論」「記憶術」「伝達術」の五つを提唱しました。
* **発想術(Inventio)**: 弁論の主題にふさわしい内容や論点を発見する技術。
* **構成術(Dispositio)**: 発見した内容や論点を効果的に配置し、弁論全体の構成を組み立てる技術。
* **文体論(Elocutio)**: 伝えたい内容や目的に応じて、適切な言葉遣いや表現技法を選択する技術。
* **記憶術(Memoria)**: 長時間の弁論を記憶し、スムーズに話せるようにするための技術。
* **伝達術(Actio)**: 声の調子、表情、身振りなどを効果的に使い、聴衆に訴えかける技術。
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弁論術の三つの様式
キケロは、弁論の目的と状況に応じて使い分けるべき三つの様式を提示しました。
* **高尚な様式(Genus Grande)**: 高尚なテーマを扱う際に用いられる、荘重で力強い表現が特徴的な様式。
* **中間的な様式(Genus Medium)**: 穏やかな議論や説明に適した、自然で分かりやすい表現を用いる様式。
* **簡素な様式(Genus Humile)**: 日常的な話題や個人的な感情を表現する際に用いられる、簡潔で飾り気のない様式。
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キケロの弁論術の影響
キケロの弁論術は、古代ローマにおいて絶大な影響力を持つとともに、その後の西洋の修辞学、教育、政治、法律など、多岐にわたる分野に影響を与え続けました。彼の著作は、今日においても弁論術の基本文献として、また、西洋古典の重要な一部として読み継がれています。