## キケロの『老年について』とアートとの関係
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老年期における精神活動の重要性
『老年について』は、キケロが晩年に執筆した、老いという人生の段階を肯定的に捉え、その価値と可能性を論じた哲学対話篇です。作中では、老齢期における肉体的衰えへの対処法よりも、むしろ精神的な活動の重要性が強調されています。
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アートへの直接言及の欠如
注目すべきは、『老年について』において、絵画、彫刻、音楽、文学といった具体的なアートの形式に対する直接的な言及がほとんど見られない点です。キケロは、老後の楽しみとして、農業や読書、友人との会話を挙げますが、芸術活動については触れていません。
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「精神の耕作」としての隠喩
ただし、だからといってキケロがアートを軽視していたと断言することはできません。彼は、老いてもなお「精神の耕作」を怠るべきではないと説き、知性と教養を磨き続けることの重要性を訴えています。この「精神の耕作」は、広い意味での創造的な活動、すなわちアートにも通じると解釈可能です。
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古代ローマにおけるアートの捉え方
また、古代ローマ社会において、アートは現代とは異なる文脈で捉えられていたことも考慮する必要があります。当時のアートは、娯楽や美的享受の対象であると同時に、政治や宗教、道徳と密接に結びついた社会的な機能を持っていました。キケロが重視したのは、このような高尚な目的を持った「真の」アートであった可能性も考えられます。