ガルブレイスの不確実性の時代の原点
経済学者の認識と現実の乖離
1970年代、ジョン・ケネス・ガルブレイスは、経済学者が依拠する伝統的な経済理論と、現実の経済状況との間に深刻な乖離が生じていると指摘しました。当時、世界経済は、第二次世界大戦後の高度経済成長期を経て、インフレーションと不況が同時発生するスタグフレーションという未曾有の事態に直面していました。しかし、当時の主流派経済学は、完全競争や合理的経済主体の行動といった前提に基づいて構築されており、政府の介入を最小限に抑えるべきだとする考え方が支配的でした。ガルブレイスは、このような伝統的な経済理論では、巨大企業の価格支配力や労働組合の影響力といった現実の経済構造を捉えきれず、スタグフレーションの原因を説明できないと批判しました。
巨大企業の台頭と市場メカニズムの変化
ガルブレイスは、現代資本主義経済において、巨大企業が経済活動において重要な役割を果たすようになり、市場メカニズムが変化していると主張しました。伝統的な経済理論では、多数の企業が競争することで価格が決定されるとされていましたが、現実には、少数の巨大企業が市場シェアを寡占し、価格や生産量をコントロールする力が強まっていると指摘しました。また、巨大企業は、広告やマーケティングを通じて消費者の選好を操作し、需要を創出する力も持つようになりました。ガルブレイスは、このような巨大企業の行動は、伝統的な経済理論の前提とは大きく異なり、市場メカニズムに歪みを生み出すと論じました。
技術進歩と労働市場の二極化
ガルブレイスは、技術進歩が労働市場に大きな変化をもたらし、所得格差の拡大につながっていると指摘しました。高度な技術や知識を必要とする仕事が増加する一方で、単純労働の仕事は減少しており、労働市場は高スキル労働者と低スキル労働者に二極化していくと予測しました。また、技術進歩は、企業の生産性を向上させ、労働需要を減少させる可能性もあると指摘しました。ガルブレイスは、このような技術進歩の影響は、伝統的な経済理論では十分に考慮されておらず、労働市場の不安定化や所得格差の拡大といった問題に対処するためには、政府による積極的な政策介入が必要であると主張しました。