## ガダマーの真理と方法の評価
評価のポイント
ハンス・ゲオルク・ガダマーの主著『真理と方法』(1960) は、20世紀後半の人文科学、特に解釈学の分野に多大な影響を与えた記念碑的著作として位置付けられています。この著作は、伝統的な認識論的方法では捉えきれない人文科学の独自性を主張し、理解の本質を「解釈学的循環」や「地平融合」といった概念を用いて解明しようと試みました。
肯定的な評価
『真理と方法』に対する肯定的な評価として、以下のような点が挙げられます。
* **人文科学の自律性の擁護**: ガダマーは、従来の科学主義的な認識論が前提としてきた客観主義や方法的懐疑を批判し、歴史的・文化的背景によって規定される人間の理解のあり方を積極的に評価しました。これは、科学とは異なる方法で真理に接近する人文科学の独自性を擁護するものであり、人文科学の研究者に大きな影響を与えました。
* **理解の過程の解明**: ガダマーは、理解を静的な認識ではなく、解釈者とテクスト(作品)との間の相互作用によって展開される動的なプロセスとして捉え、「解釈学的循環」という概念を用いて説明しました。これは、理解が一方的な行為ではなく、常に解釈者の先入見や歴史的背景の影響を受けながら深まっていくことを示唆しており、解釈学の基礎概念として広く受け入れられています。
* **伝統と対話の重視**: ガダマーは、人間存在が歴史的伝統と切り離せないことを強調し、理解を伝統と対話を通じて自己理解を深める行為として位置づけました。これは、伝統を単なる過去の遺物としてではなく、現在の我々を形成する重要な要素として捉え直すものであり、現代社会における伝統の役割を考える上で重要な視点を提供しています。
批判的な評価
一方、『真理と方法』に対する批判的な評価としては、以下のような点が指摘されています。
* **歴史相対主義**: ガダマーは、理解が常に歴史的状況に規定されることを強調しましたが、これは客観的な真理の基準を曖昧にし、歴史相対主義に陥る危険性を孕んでいるという批判があります。
* **保守主義**: ガダマーは、伝統との対話を重視しましたが、これは現状維持を肯定し、社会変革を阻害する保守主義的な立場と見なされることもあります。
* **解釈の客観性**: ガダマーは、解釈が解釈者の先入見の影響を受けることを認めつつも、対話を通じてより妥当な解釈へと収斂していくと考えていましたが、解釈の客観性をどのように担保するのかという問題については十分な説明がないという指摘があります。
影響
『真理と方法』は、出版以来、哲学、文学、歴史学、法学、神学など、人文科学の幅広い分野に多大な影響を与えてきました。特に、解釈学はガダマーの影響のもとで独自の学問分野として発展し、現代思想における重要な潮流の一つとなっています。また、ガダマーの思想は、文学作品の解釈や歴史資料の分析など、具体的な研究活動にも広く応用されています。