## ガダマーの真理と方法と時間
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時間と歴史的認識
ガダマーにとって、人間存在は本質的に歴史的なものです。我々は、自らの歴史や文化から完全に自由になることはできません。むしろ、我々の理解は常に、それらによって形作られています。この「歴史性」は、我々が時間をどのように経験するかという点と密接に関係しています。ガダマーは、伝統的な時間理解、つまり過去―現在―未来という直線的な時間理解を批判し、代わりに「歴史的時間の経験」を重視します。
伝統的な時間理解では、現在は過去と未来の単なる中間点と見なされます。しかし、ガダマーによれば、我々は現在において過去を「現在化」し、未来への「先駆」として理解します。つまり、過去は単に過ぎ去ったものではなく、現在における我々の理解に影響を与え続けるものであり、未来は単に未知のものではなく、現在における我々の期待や希望を反映するものです。
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伝統と偏見
我々が歴史的存在である以上、我々の理解は常に「伝統」によって媒介されています。伝統とは、過去の世代から受け継がれた知識、価値観、慣習などを指します。ガダマーは、伝統を単なる過去の遺物と見なすのではなく、現在における我々の理解を豊かにする資源として捉えます。
伝統は、我々に「偏見」をもたらします。偏見とは、事前に形成された意見や判断のことですが、ガダマーは、偏見を必ずしも否定的なものとは見なしません。なぜなら、偏見は我々が世界を理解するための前提条件となるからです。偏見なしに、我々は膨大な情報の中から意味を見出すことができません。
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対話と歴史的距離
伝統や偏見は、我々の理解を限定するものでもあります。しかし、ガダマーは、対話を通じて、我々は自らの偏見を意識化し、それを乗り越えることができると主張します。対話とは、異なる立場や意見を持つ他者との開かれた対話のことであり、そこでは、自らの偏見が問われ、修正されます。
特に、歴史的テキストとの対話は重要です。歴史的テキストは、我々とは異なる時間と伝統の中で書かれたものです。それらを読むことで、我々は自らの歴史的状況を相対化し、新たな視点を得ることができます。ガダマーは、この過程を「歴史的距離の効果」と呼びます。歴史的距離は、我々の偏見を露わにし、より深い理解へと導いてくれます。