## カントの純粋理性批判と人間
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認識能力への批判的考察
イマヌエル・カントの主著『純粋理性批判』は、人間の認識能力への批判的な考察を通して、形而上学の可能性と限界を探求した画期的な著作です。カント以前は、人間の理性は世界の真の姿をありのままに捉えうると信じられていました。しかしカントは、理性には生まれながらに備わった限界があると主張し、伝統的な形而上学に疑問を呈しました。
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物自体と現象
カントによれば、私たちが認識しているのは、物自体(物そのもの)ではなく、私たちの感性と悟性によって構成された現象です。私たちには時間、空間、因果性といった「アプリオリな形式」が備わっており、感覚経験はこの形式を通してのみ認識されます。 つまり、私たちが認識するのは、物自体ではなく、あくまでも「現象」としての世界です。物自体の本質は、人間の認識能力を超越しており、理性によって把握することはできません。
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感性と悟性
カントは、人間の認識能力を「感性」と「悟性」に分けました。感性は、外部からの刺激を受け取る能力であり、時間と空間という形式によって成り立っています。一方、悟性は、感性によって与えられた素材を整理し、概念を用いて思考する能力です。悟性には、12のカテゴリー(純粋悟性概念)がアプリオリに備わっており、これによって現象を認識します。
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理性と antinomy
悟性の上位能力である理性は、条件付けられないものを求め、世界全体や魂、神といった超越的な理念を思考しようとします。しかし、これらの理念に関する知識は、経験によって与えられるものではなく、理性は antinomy(二律背反)に陥ってしまいます。カントは、世界は有限か無限か、世界には第一原因があるのかないのかといった問題を取り上げ、理性はどちらの立場も証明できず、矛盾に陥ると指摘しました。
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実践理性と道徳
カントは、『純粋理性批判』で理論理性の限界を示した後、『実践理性批判』において、道徳の領域における理性に新たな光を当てました。カントは、人間には自由意志に基づいて道徳法則を立て、それに従って行動する能力があると主張しました。道徳法則は、「あなたの意志の格率が、いつでも同時に普遍的な立法の原理となるように行為しなさい」という「定言命法」として表現されます。
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人間の自由と自律
カントは、人間を現象の世界と自由の世界の両方に属する存在と捉えました。現象の世界では、人間の行為は自然法則に支配されていますが、自由の世界では、人間は自律的な存在として道徳法則に従って行動することができます。カントは、人間の尊厳は、この自由と自律性に基づくと考えました。