カントの永遠平和のために
カントの思想的背景
カントの永遠平和論は、彼の批判哲学の体系と深く結びついています。カントは、人間の理性には、経験を超越した先天的能力として、「純粋理性」と「実践理性」の二つがあると考えました。純粋理性は、自然科学的な認識を可能にする能力であり、実践理性は、道徳的な行為を可能にする能力です。
カントは、実践理性によって導かれるとき、人間は、自由で自律的な存在として行動できると考えました。そして、自由で自律的な個人としての人間は、互いに尊重し合い、普遍的な道徳法則に従って行動するべきだと主張しました。この道徳法則は、「汝の意志の格率が、つねに同時に、それがによって普遍的な立法の原理となるべきであるようなものとして妥当するように行為せよ」という定言命法として表現されます。
18世紀の時代背景
カントが永遠平和論を執筆した18世紀後半は、ヨーロッパ社会が激動と変革の時代を迎えていました。1789年にはフランス革命が勃発し、自由、平等、博愛の理念がヨーロッパ中に広まりました。しかし、同時に、フランス革命は、ナポレオン戦争のような新たな国際紛争も引き起こしました。
カントは、フランス革命の理念に共感し、その理念を実現するために、国際社会における恒久的な平和の実現が不可欠だと考えました。カントは、戦争は人間の理性を否定するものであり、平和こそが人間の理性に合致するものだと考えました。
先行する思想
カントの永遠平和論は、当時の社会契約論や自然法論などの影響を受けています。特に、グロティウス、プーフェンドルフ、ヴァテルなどの思想家たちは、国際社会における法秩序の必要性を説き、戦争を制限するための国際法の制定を主張しました。
カントは、これらの先行する思想を批判的に継承しつつ、独自の永遠平和論を展開しました。カントは、国際社会における平和は、単に国際法によって実現されるのではなく、個々の国家が共和制を採用し、国際連合のような国際機関を設立することによってのみ実現されると考えました。