Skip to content Skip to footer

カントの実践理性批判の周辺

## カントの実践理性批判の周辺

###

背景

「実践理性批判」(Kritik der praktischen Vernunft) は、イマヌエル・カントによって1788年に出版された哲学書です。これは、1781年に出版された「純粋理性批判」に続く、「三大批判書」と呼ばれる著作群の第二作目に当たります。「純粋理性批判」において、人間の認識能力の限界を明らかにし、形而上学に厳しい批判を加えたカントは、「実践理性批判」において、道徳や自由といった実践的な問題へと考察を進めます。

当時のヨーロッパ思想界は、啓蒙主義の隆盛から理性に対する絶対的な信頼が広まっていましたが、同時に、感情や感覚を重視する反啓蒙主義的な思潮も台頭していました。このような時代背景の中、カントは、「実践理性批判」において、人間の理性には、認識能力としての「理論理性」と、行為の根拠となる「実践理性」の二つの側面があることを明らかにします。そして、理論理性では捉えきれない道徳法則の存在を、実践理性によって基礎づけようと試みました。

###

内容

「実践理性批判」は、「序論」と二つの部分から構成されています。第一部は「実践理性批判の基礎づけ」と題され、道徳法則の根拠と自由の概念が論じられます。第二部は「実践理性批判の方法論」と題され、道徳的に善な意志の概念に基づいて、道徳形而上学の体系を構築しようとします。

カントは、「善意志」のみが道徳的に価値あるものと考えます。そして、善意志とは、義務感から発せられる意志であるとし、その法則を「定言命法」と呼びます。定言命法は、「あなたの意志の格率が、いつでも同時に普遍的な立法の原理となるように行為せよ」と表現されます。これは、行為の普遍化可能性を判断基準とするものであり、その意味で形式的な道徳法則と言えます。

さらにカントは、自由意志の存在を前提としなければ道徳は成立しないと主張します。自由とは、自然法則に支配されない自律的な意志のことであり、道徳法則に従うためには、人間は自由でなければならないと考えます。

###

影響

「実践理性批判」は、西洋倫理学において最も重要な著作の一つとされ、その影響は現代に至るまで多岐にわたります。特に、義務論、自由論、道徳哲学、政治哲学といった分野に大きな影響を与えました。

カントの道徳哲学は、その後のドイツ観念論、特にヘーゲルやフィヒテの思想に多大な影響を与えました。また、カントの自由論は、近代的な自由主義思想の基礎となり、現代の政治哲学においても重要な論点となっています。

一方で、「実践理性批判」は、その抽象的な議論や、現実の道徳問題への適用可能性の低さなどから、様々な批判も寄せられています。しかし、現代においても、カントの道徳哲学は、人間の尊厳と自由という普遍的な価値観を根拠づけるものとして、倫理的な思考の重要な拠り所となっています。

Amazonで詳細を見る

Leave a comment

0.0/5