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カントの判断力批判を読む前に

カントの判断力批判を読む前に

準備1. カントの生涯と時代背景を知る

イマヌエル・カントは1724年、東プロイセンのケーニヒスベルク(現ロシア領カリーニングラード)で生まれました。敬虔なルター派の家庭に育ち、生涯を通じてこの町から出ることはありませんでした。ケーニヒスベルク大学で哲学、数学、物理学などを学び、家庭教師などをしながら生計を立て、後に大学で長く教鞭をとることになります。

カントが生きていた時代は、啓蒙主義の真っただ中であり、理性による世界の理解と人間の解放が強く叫ばれていました。彼は、当時の代表的な哲学者であるライプニッツやヒュームなどの影響を受けながら、独自の批判哲学体系を築き上げていきます。

彼の著作は難解として知られていますが、それは彼が人間の理性や認識能力の限界を厳密に探求しようとしたためです。彼の思想は、その後の哲学、倫理学、美学、政治思想などに多大な影響を与え、現代においてもなお重要な意味を持ち続けています。

準備2. カント哲学の基礎を理解する

カントの思想、特に批判哲学と呼ばれる一連の著作群を理解するためには、いくつかの重要なキーワードを押さえておく必要があります。

まず、「批判」という言葉ですが、これは無条件に受け入れるのではなく、人間の理性に照らし合わせて何が妥当なのかを吟味する態度を意味します。カント以前は、理性は絶対的なもの、あるいは神から与えられた完全なものと考えられていました。しかし、カントは人間の理性には限界があり、その限界を自覚することが重要だと主張しました。

次に、「超越論的」という言葉は、人間の認識の枠組みや構造を明らかにしようとする立場を指します。カントは、人間は外界の事物そのものを認識することはできず、あくまでも人間の感性や悟性というフィルターを通して認識していると主張しました。

さらに、「物自体」は、人間の認識の枠組みの外にある、認識不可能なものを指します。私たちが認識できるのは、物自体ではなく、人間の感性によって構成された現象にすぎません。

準備3. 三批判書の関係性を把握する

カントの主著である三批判書、すなわち『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』は、それぞれ人間の認識能力、道徳法則、美的判断と目的論的判断という異なるテーマを扱っていますが、相互に密接な関連性を持っています。

『純粋理性批判』では、人間の認識能力の構造と限界を明らかにし、形而上学や自然科学の基礎づけを試みています。時間や空間といった概念は、外界に実在するものではなく、人間の感性が持つ認識の形式であると主張しました。

『実践理性批判』では、道徳法則は人間の理性に由来するものであり、普遍的かつ絶対的なものであると主張しました。有名な「定言命法」は、行為の格率が普遍的な法則となるように行動しなければならないという道徳法則を表現したものです。

そして、『判断力批判』では、美的判断と目的論的判断という、一見すると主観的で偶然性に左右されやすい領域においても、普遍的な原理を見出そうと試みています。

準備4. 関連する先行作品に触れておく

カントの『判断力批判』をより深く理解するためには、関連する先行作品、特に美学や目的論に関する著作に触れておくことが有効です。

古代ギリシャのアリストテレスは、その著作『詩学』の中で、悲劇が観客にカタルシスをもたらす効果について論じています。カタルシスとは、恐怖や憐れみといった感情を浄化することを意味し、これは美的体験が持つ倫理的な側面を示唆するものとして解釈できます。

18世紀イギリスの経験論哲学者デイヴィッド・ヒュームは、『趣味論』の中で、美しさは客観的な性質ではなく、人間の主観的な感情によって決定されると主張しました。彼はまた、美の判断には、繊細な感覚、偏見からの自由、経験などが必要であると述べています。

これらの作品は、美の客観性と主観性、美的体験の本質、芸術と道徳の関係など、『判断力批判』においても中心的なテーマとなる問題を提起しており、カントの思想を理解するための重要な手がかりを与えてくれます。

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