カントの判断力批判の関連著作
ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』
ショーペンハウアーは、カントの哲学を継承しつつも批判的に発展させた哲学者として知られています。特に、『意志と表象としての世界』は、カントの『判断力批判』における美的判断論と密接な関係を持っています。
カントは、『判断力批判』において、美的判断は、対象の概念に依存しない、主観的な快に基づく判断であると論じました。つまり、私たちは、対象が美しいかどうかを、その対象が何であるかを知ることなく判断することができるというのです。
ショーペンハウアーは、カントの美的判断論を高く評価し、それを自身の哲学体系に組み込みました。ショーペンハウアーは、世界は「意志」と「表象」から成り立っていると主張しました。「意志」とは、この世界の根底にある、盲目的で、非理性的で、絶えず欲求する力のことです。「表象」とは、私たちが感覚器官を通じて認識する、現象世界のことです。
ショーペンハウアーにとって、芸術作品は、この「意志」の支配から一時的に解放されるための手段でした。芸術作品を鑑賞することによって、私たちは、個々の事物や現象を超えた、普遍的な「理念」を直観することができます。そして、この「理念」の直観によって、私たちは、「意志」の苦悩から解放され、静寂と安らぎを得ることができるのです。
ヘーゲル『精神現象学』
ヘーゲルは、カントの哲学を批判的に継承しつつ、独自の壮大な哲学体系を構築しました。『精神現象学』はその代表作であり、人間の意識が、最も未発達な段階から、自己意識、理性、精神、そして絶対知へと至る発展の過程を、弁証法的な方法を用いて叙述した書です。
ヘーゲルは、カントの『判断力批判』を、美的理念論に注目して解釈しました。カントは、美的理念は、感性と悟性の調和を表現するものであり、自然の合目的性の根拠となると考えました。ヘーゲルは、このカントの美的理念論を、自身の弁証法的な思考発展のモデルとして捉え直しました。
ヘーゲルにとって、世界の歴史は、絶対精神が自己実現していく過程です。絶対精神は、自然、人間、社会、芸術、宗教など、様々な形態を通じて自己を展開していきます。そして、その発展の過程は、正、反、合の弁証法的な運動によって特徴付けられます。
ヘーゲルは、カントの美的理念論を、この弁証法的な発展の過程の一つの段階として位置づけました。美的理念は、感性と悟性の対立を止揚し、両者を調和させたものです。しかし、美的理念は、まだ完全なものではありません。美的理念は、さらに発展し、宗教や哲学といった、より高次の段階へと進んでいく必要があるのです。