## カントの人倫の形而上学・法論の原点
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道徳の基礎付けへの探求
カントの『人倫の形而上学・法論』(1797年)は、その思想的背景として、当時の西洋哲学における重要な問題意識、すなわち「道徳の基礎付け」を巡る議論を孕んでいます。18世紀のヨーロッパ思想界は、イギリス経験論と大陸合理論の対立を軸に展開されました。特に道徳領域においては、ヒュームの感情主義の影響を受け、道徳判断の根拠を感情や感覚といった主観的なものに置く立場が有力視されつつありました。
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理性による道徳法則の導出
このような状況に対し、カントは理性に基づく道徳の客観的な基礎付けを試みます。カントは、人間の理性には経験に依存しないアプリオリな認識能力があると主張し、道徳法則もまた、この理性に由来すると考えました。彼は、道徳法則が普遍的かつ必然的なものでなければならないことから、その根拠は経験的なものではなく、理性そのものに求められると考えました。
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義務と道徳法則
カントは、道徳的行為の根底には「義務」の概念があるとしました。義務とは、「~しなければならない」という理性からの命令であり、いかなる条件も目的も抜きにして、ただそれ自体として遂行されるべきものです。そして、この義務の概念を通して把握されるのが「道徳法則」です。道徳法則は、普遍的な理性から導き出されるため、すべての人間に等しく当てはまります。
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定言命法
カントは道徳法則を、「あなたの意志の格率が、つねに同時に普遍的な立法の原理となるように行為せよ」という「定言命法」として定式化しました。これは、ある行為の道徳性を判断する基準を、それが普遍的な法則となりうるかどうかに置いたものです。もし、ある行為の格率(行為の主観的な原理)が、普遍化することによって矛盾をきたすならば、その行為は道徳的に許されないものとなります。