カントの人倫の形而上学・法論の位置づけ
カントの思想における位置づけ
『人倫の形而上学』は、カントの三大批判書と呼ばれる『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』のうち、『実践理性批判』で提示された道徳哲学を基礎として、それを社会や歴史といった具体的な領域に展開した応用倫理学の書です。1797年に出版されました。
『人倫の形而上学』の構成
本書は、「法論」と「徳論」の二部構成をとっています。
* **法論:** 法としての道徳、すなわち他者の自由と両立しうる自由を持つための外的・強制的な規範を扱います。国家論もこの法論の中に含まれます。
* **徳論:** 道徳、すなわち自己自身の内からの義務に従うことを扱います。
法論の内容
法論では、道徳法則から演繹される法的義務が論じられます。カントは、人間の行為を「権利」と「義務」の概念を用いて捉え、法は他者の自由を侵害しないための義務であると定義します。
法論の中心的な概念は「法的状態」です。これは、個人の自由と他者の自由が法によって両立している状態を指します。カントは、自然状態では個人の権利は保障されないため、法的状態への移行、すなわち国家の樹立が必要であると主張します。
徳論の内容
一方、徳論では、法のような外的強制力ではなく、自己の理性に従うことによってのみ達成される道徳的義務が論じられます。徳論では、特に「義務からの行為」が強調されます。
徳論の中心的な概念は「最高善」です。これは、道徳的に善であることと、幸福であることが一致した状態を指します。カントは、現世においてこの最高善は実現不可能であると考え、来世における魂の不死と神の存在を要請します。
『人倫の形而上学』の影響
『人倫の形而上学』は、その後の倫理学、政治哲学、法哲学に多大な影響を与えました。特に、義務論的倫理学の代表的な著作として、現代においても重要な古典として位置づけられています。
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