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カントの『実践理性批判』の思想的背景

## カントの『実践理性批判』の思想的背景

近代自然科学の成功と道徳の危機

17世紀以降、ニュートン力学に代表される近代自然科学がめざましい発展を遂げました。その成功は、合理的な思考と経験に基づく方法によって、世界の客観的な法則を解明できるという自信を人々にもたらしました。

しかし、同時にこれは伝統的な道徳観念を揺るがすものでもありました。宗教的権威が後退し、世界が機械論的に説明されるようになると、人間の自由意志や道徳の客観的な根拠は疑わしく思われました。理性によって自然法則を認識できるとしても、果たして理性は善悪を判断する基準となりうるのか、という問題が浮上したのです。

イギリス経験論と大陸合理論の対立

カントは、当時の哲学を代表する二つの潮流、イギリス経験論と大陸合理論の対立を背景に自らの思想を展開しました。

ロックやヒュームに代表されるイギリス経験論は、人間の知識の源泉を経験に求めました。彼らは、感覚的経験から帰納的に概念を形成していく過程を重視し、理性に先天的な能力を認めませんでした。道徳についても、快楽や苦痛といった経験に基づいて形成されると考えました。

一方、デカルトやライプニッツに代表される大陸合理論は、理性に先天的な能力を認め、経験に先立つ認識を重視しました。彼らは、数学的真理のように、理性のみによって確実な知識を得ることができると考えました。

ルソーの影響

カントは、特にルソーの思想から大きな影響を受けました。ルソーは、人間の自由と自律を強く主張し、社会や文化によって人間が堕落させられていると批判しました。また、理性だけでなく、感情や意志も人間の重要な能力であると捉え、道徳的判断において感情が果たす役割を重視しました。

カントは、ルソーの自由と自律の思想に共感し、人間の尊厳と道徳の根拠を明らかにしようとしました。しかし、ルソーが感情や意志に訴えかける道徳論を展開したのに対し、カントは理性に基づく普遍的な道徳法則を打ち立てようと試みた点が異なります。

これらの思想的背景を踏まえ、カントは『実践理性批判』において、理性に基づく道徳哲学を体系化しようと試みました。

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