カルヴィーノの見えない都市と時間
時間と都市の関係性
『見えない都市』では、時間と都市の関係性が複雑に絡み合っています。マルコ・ポーロがフビライ・ハーンに語る都市の物語は、過去、現在、未来が混在し、線形的時間軸に沿って進むものではありません。
例えば、「ゾイル」は「そこに住む人々が、都市の過去について少しも忘れることのない都市」として描かれます。過去が現在に強く影響を与え、都市の姿を規定している点が特徴です。
一方、「バウキス」は「杭の上に建てられ、時とともに変化する都市」であり、時間の流れとともにその姿を変えていきます。ここでは、時間経過が都市の変容を促す要素として描かれています。
反復される時間
作中では、似たようなモチーフやテーマを持つ都市が繰り返し登場します。これは、時間の中で都市が絶えず変化する一方で、ある種の普遍的な構造やパターンを繰り返していることを示唆しています。
例えば、「連続する都市」の章では、複数の都市が連続的に語られますが、それぞれの都市は微妙に異なりながらも、共通の要素を含んでいます。これは、時間の流れの中で繰り返される都市の姿を象徴していると言えるでしょう。
記憶と時間
『見えない都市』では、記憶が時間と密接に関係しています。都市はそこに住む人々の記憶によって形作られ、また、都市を訪れた旅行者の記憶にも刻まれます。
例えば、「記憶の都市」である「ゼノビア」は、「砂漠の中にそびえ立ち、もはや存在しない都市」として描かれますが、人々の記憶の中に生き続けています。ここでは、記憶が時間を超えて都市の存在を保証する役割を果たしています。
時間の不在
一方で、『見えない都市』には、時間そのものが希薄化された都市も登場します。
例えば、「幸福の都市」である「エウドロクシア」では、「過去も未来もなく、現在だけがある」とされます。ここでは、時間の流れが停止し、永遠に続く現在という概念が提示されています。
このように、『見えない都市』における時間は、単なる経過や流れとして描かれるのではなく、都市の姿や人々の認識と複雑に絡み合い、多様な様相を呈しています。