カルヴィーノの木のぼり男爵に影響を与えた本
トーマス・モア著 ユートピア
トーマス・モアが1516年に発表した『ユートピア』は、架空の理想社会を描写した作品であり、その社会体制や思想は後の時代にも大きな影響を与えました。
カルヴィーノの『木のぼり男爵』もまた、理想を追い求める主人公の姿を描いていますが、モアの作品との共通点は多く見られます。
まず、両作品とも主人公が既存の社会体制や価値観に疑問を抱き、そこから逸脱していくという点が共通しています。『ユートピア』では、探検家ヒュスローデェが航海の末たどり着いた理想郷ユートピアについて語り、その社会制度や人々の暮らしを詳細に描写します。
そこでは私有財産制が否定され、貨幣経済も存在せず、人々は労働の義務と平等な権利を享受しています。
一方、『木のぼり男爵』のコジモは、厳格な貴族社会のしきたりに反発し、木の上での生活を選びます。
彼は木の上から社会を観察し、独自の視点で世界を解釈していきます。
また、両作品とも風刺や寓意を交えながら、当時の社会問題や人間の普遍的なテーマを浮き彫りにしている点も共通しています。『ユートピア』では、当時のヨーロッパ社会における貧富の格差、宗教的な対立、戦争などの問題を背景に、理想社会とは何かを問いかけています。
『木のぼり男爵』もまた、フランス革命後の混乱期を舞台に、自由と束縛、個人と社会など、時代を超えた普遍的なテーマを扱っています。
このように、『ユートピア』と『木のぼり男爵』は、理想社会の追求という共通のテーマを扱いながら、風刺や寓意を交えて社会や人間の本質に迫る作品です。
カルヴィーノは、モアの作品から影響を受けながら、独自の視点と文学的才能によって、時代を超えて愛される名作を生み出したと言えるでしょう。