カミュの異邦人の表現
表現の特徴：客観性と即物描写
カミュは『異邦人』において、主人公ムルソーの内的世界を直接的に描写するのではなく、客観的な視点と即物的な描写を用いることで、彼の意識を浮き彫りにしています。
ムルソーの心情や感情は、彼の行動や周囲の状況、そして彼の目に映る風景や事物を通して間接的に表現されます。例えば、母親の死に対する彼の反応は、涙を流したり悲しみに暮れるといった直接的な描写ではなく、「疲れていた」「眠かった」といった彼の肉体的な感覚を通して示されます。
表現の特徴：簡潔な文体と倒置法
簡潔な文体と倒置法も、『異邦人』の表現における特徴です。短い文章を積み重ねることで、ムルソーの感情の起伏が少ない、淡々とした心理状態が強調されます。
また、通常の語順を逆にする倒置法を用いることで、客観的な事実の列挙に主観的なニュアンスを付加し、読者に不穏な印象を与えています。
表現の特徴：感覚的な描写と比喩
ムルソーの視点を通して描かれる世界は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚といった感覚的な描写を多用することで、生々しく鮮やかに表現されています。
太陽の光と熱、海の輝き、銃声やサイレンの音、土の匂いなど、具体的なイメージを喚起する描写は、ムルソーの意識と外界との距離感を際立たせると同時に、彼の存在の不安定さを暗示しています。また、比喩も効果的に用いられており、特に自然現象にたとえられる人間の存在は、不条理な世界における人間の無力さを象徴的に表現しています。