## カミュの「ペスト」とアートとの関係
###
芸術の無力さ
「ペスト」では、登場人物たちが絵画、音楽、文学といった芸術に慰めを求めようとする様子が描かれています。しかし、ペスト禍の現実の前に、芸術はしばしばその力を失っているように見えます。
主人公の医師リウーは、ペスト禍の初期に友人のタルーが書き溜めていた原稿を読み返す場面があります。タルーはペスト禍以前には、芸術を通して人間の苦悩を理解し、表現することに情熱を燃やしていました。しかし、ペスト禍の現実を前に、彼の原稿は空虚で現実味を欠いたものに感じられます。
また、同じく医師であるカステルは、マンドリンの演奏を趣味としています。彼はペスト禍の間も演奏を続けようとしますが、ペストによる死者の増加と人々の恐怖を前に、その音色は虚しく響くばかりです。
このように、「ペスト」では、ペスト禍という極限状態において、芸術は現実を変える力を持たず、人々に真の慰めを与えることもできないという、ある種の無力さが示唆されています。
###
芸術の持つ意味
しかし、だからといってカミュが「ペスト」において芸術を完全に否定しているわけではありません。
リウーは、タルーの原稿に描かれた理想主義的な人間像に共感しつつも、ペスト禍の現実を通して、人間の弱さや矛盾をも受け入れることの重要性に気づいていきます。
また、カステルのマンドリンの演奏は、ペスト禍によって失われつつある人間の尊厳や希望を象徴するものとして、静かに人々の心に響き渡ります。
「ペスト」における芸術は、現実を直接変える力を持たないかもしれません。しかし、ペスト禍のような不条理な状況においても、人間としての尊厳や希望を忘れずにいることの大切さを、静かに語りかけていると言えるでしょう。