## カポーティの冷血の批評
批評①：ノンフィクション・ノベルというジャンル
「カポーティの冷血」は、1959年にカンザス州で発生したクラッター一家惨殺事件を取材し、犯人であるペリー・スミスとディック・ヒコックの視点も交えながら事件の背景や真相に迫った作品です。カポーティはこの作品を「ノンフィクション・ノベル」と銘打ち、従来のルポルタージュとは一線を画す、新しいジャーナリズムの形を提示しました。
この「ノンフィクション・ノベル」というジャンルは、事件の描写に当たって徹底的な取材に基づく事実のみを用いるという点で、従来のフィクションとは異なります。カポーティは6年の歳月をかけて事件の関係者や関係資料を丹念に調べ上げ、膨大な量のメモやインタビュー記録を残しました。彼はこの膨大な資料を元に、事件を克明に再現することに成功したのです。
一方で、「ノンフィクション・ノベル」は、小説的な手法を用いて事件をより深く掘り下げ、登場人物の心理や社会的な背景を描写している点で、単なるルポルタージュとも異なります。カポーティは、事件の関係者へのインタビューを通して彼らの心情や生い立ちを理解しようと努め、その結果を作品に反映させました。特に、犯人であるペリー・スミスに対しては同情的な視点を持ち、彼の複雑な内面を描き出すことに成功しています。
批評②：客観性と倫理
「ノンフィクション・ノベル」という新しい試みは高い評価を受けましたが、一方でその手法には批判も寄せられました。特に、事実に基づいているとはいえ、小説的な脚色が加えられている以上、完全に客観的な描写は不可能ではないかという批判は根強くあります。
例えば、カポーティはペリー・スミスとの間に個人的な関係を築き、彼に同情的な感情を抱いていたと言われています。そのため、作品内ではペリーがより共感を得やすいように描写され、逆に被害者であるクラッター一家の人物描写がおろそかになっているという指摘もあります。
また、カポーティが事件の関係者に対して、金銭や情報の提供と引き換えに彼らの協力を得ていたことも倫理的な問題として指摘されています。
批評③：文学作品としての価値
「カポーティの冷血」は、ジャーナリズムと文学の境界線を曖昧にする作品として、発表当時から様々な議論を巻き起こしました。しかし、その一方で、徹底的な取材に基づいたリアリティと、登場人物の心理描写の巧みさ、そして社会への鋭い洞察などが評価され、現代アメリカ文学を代表する傑作として高い評価を得ています。
「カポーティの冷血」は、単なる犯罪ノンフィクションを超えた、人間の深淵を覗き込むような重厚な作品として、今日においても多くの読者を魅了し続けています。