オースティンのマンスフィールド・パークに影響を与えた本
サミュエル・ジョンソンの『ラスセラス』の影響
ジェーン・オースティンの『マンスフィールド・パーク』は、数多くの文学作品から影響を受けていますが、その中でもサミュエル・ジョンソンの哲学小説『ラスセラス』は、特に重要な影響を与えた作品の一つです。1759年に出版された『ラスセラス』は、アビシニアの王子ラスセラスの物語です。ラスセラスは、楽園のような「幸福の谷」から逃げ出し、家庭教師のイムラックや妹のネッキーアと共に、外の世界を旅して、人類にとっての真の幸福とは何かを追求します。さまざまな社会や人生の歩み方を探求しますが、真の幸福は外部の状況ではなく、心の状態によって決まるという結論に達します。
『ラスセラス』は、18世紀後半に広く読まれ、議論された作品であり、オースティンも間違いなくこの作品を知っていたと考えられます。オースティンの小説に見られる、自己認識、道徳的義務、社会における個人の立ち位置といったテーマに対する強い関心は、ジョンソンの哲学的な考察と共鳴しています。『マンスフィールド・パーク』と『ラスセラス』の類似点は、登場人物の性格描写と、彼らが直面する道徳的なジレンマに特に顕著に見られます。
『ラスセラス』の登場人物であるイムラックは、強い道徳心を持つ、ややシニカルな人物であり、自分の観察を通して、人間の性質に関する洞察を提供します。イムラックの性格は、『マンスフィールド・パーク』のエドマンド・バートラムの性格と類似しています。エドマンド・バートラムは、分別があり、道徳的に正しい人物ではありますが、周囲の人々の欠点に対して盲目的であるという欠点も持ち合わせています。イムラックと同様に、エドマンドは物語の道徳的な羅針盤としての役割を担っており、彼の行動や観察を通して、読者は善と悪、義務と欲望の間の微妙な境界線を認識するようになります。
『ラスセラス』と『マンスフィールド・パーク』の両方に見られる中心的なテーマは、義務と個人の幸福の追求との間の緊張関係です。『ラスセラス』では、主人公とその仲間たちは、真の幸福は、快楽や物質的な所有ではなく、徳と義務を果たすことによって得られるという結論に達します。このテーマは、『マンスフィールド・パーク』において、主人公のファニー・プライスの性格を通して探求されています。ファニーは、慎み深く、自己犠牲的な若い女性であり、常に義務を最優先し、時には自分の幸福を犠牲にすることもあります。
例えば、ファニーは、いとこのエドマンドに密かに想いを寄せていますが、エドマンドは、魅力的ではあっても思慮の浅いメアリー・クロフォードに夢中になっています。義務感の強いファニーは、自分の気持ちを押し殺し、エドマンドとメアリーの関係を応援しますが、その過程で、彼女は大きな心の痛みを味わうことになります。ファニーの苦悩は、個人の欲求と社会の期待との間で板挟みになったときの、義務の複雑さとしばしば犠牲を伴う性質を浮き彫りにしています。また、このジレンマは、『ラスセラス』の中で探求されている中心的なテーマを反映しており、自己満足よりも、徳と道徳的な行動を重視する、ジョンソンの哲学的な視点と一致しています。
さらに、『ラスセラス』と『マンスフィールド・パーク』の両作品において、舞台の描写は、登場人物の道徳的な旅路を形作る上で重要な役割を果たしています。アビシニアの王子であるラスセラスは、外部の世界の探索を通じて、真の幸福は外部の状況ではなく、心の状態によって決まるということに気づきます。同様に、『マンスフィールド・パーク』では、マンスフィールド・パークの邸宅とその周辺の敷地が、登場人物の道徳的な成長の場となっています。
ファニー・プライスの性格は、彼女が幼少期を過ごしたポーツマスにある、質素で愛情に欠けた実家と対照的な、マンスフィールド・パークの洗練された環境の中で形成されていきます。この邸宅とその敷地は、ファニーが自身の価値観や信念を発達させ、自己認識を高めていくための舞台となります。さらに、登場人物がさまざまな社会的空間を移動することで、富、階級、社会における表面的な魅力といったテーマが探求され、ジョンソンの作品に見られる、人間の性質と社会の欠陥に対する鋭い観察を反映しています。
結論として、サミュエル・ジョンソンの『ラスセラス』は、ジェーン・オースティンの『マンスフィールド・パーク』に大きな影響を与えました。自己認識、道徳的義務、個人の幸福の追求というテーマを探求し、複雑な登場人物と示唆に富んだ舞台設定を通して、オースティンは、読者に人間の性質と社会の複雑さを深く掘り下げた物語を提示しています。ジョンソンの哲学小説の影響は、『マンスフィールド・パーク』の道徳的複雑さと心理的な深さに明瞭に表れており、この作品が英語文学の傑作とされている理由を物語っています。