オルテガの大衆の反逆の対極
アレクシ・ド・トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」
ホセ・オルテガ・イ・ガセットの「大衆の反逆」は、20世紀初頭のヨーロッパにおける大衆社会の台頭を批判的に捉え、専門知識と文化を持つエリート層の重要性を強調した作品です。一方、19世紀前半にアメリカを旅したフランス貴族であるアレクシ・ド・トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」は、新興国家アメリカにおける民主主義の原理と実践を詳細に観察し、分析しています。
両著の対比点:エリート主義と民主主義の擁護
オルテガは、大衆社会の弊害として、文化の低下、専門性の軽視、政治の不安定化などを挙げ、エリート層による指導の必要性を訴えました。彼は、大衆は自己中心的で受動的な存在であり、社会を導く能力や資格を持たないと考えていました。
対照的に、トクヴィルは、アメリカの民主主義が、平等主義、市民参加、地方自治などの原則に基づき、活気に満ちた社会を築き上げていることを高く評価しました。彼は、民主主義は確かに多数派の専制や個人の自由の侵害といったリスクを抱えているものの、適切な制度設計や市民の徳によって、それらのリスクを克服できる可能性を秘めていると主張しました。
考察:時代背景と社会状況の違いを踏まえて
「大衆の反逆」と「アメリカのデモクラシー」は、異なる時代背景と社会状況の中で書かれた作品です。オルテガは、第一次世界大戦後のヨーロッパ社会の混乱と危機感を背景に、大衆社会に対する強い危機感を抱いていました。一方、トクヴィルは、アメリカ独立革命の成功と民主主義の興隆を目の当たりにし、民主主義の潜在力に大きな期待を寄せていました。
両著は、民主主義とエリート主義という対照的な視点を提供することで、現代社会における政治、文化、社会のあり方について、多くの示唆を与えてくれます。