オルテガの大衆の反逆の周辺
オルテガと彼の時代
ホセ・オルテガ・イ・ガセット(1883-1955)は、20世紀スペインを代表する哲学者、思想家です。彼は、マドリード・コンプルテンセ大学で哲学を学び、その後、ドイツに留学し、フッサールやハイデガーなどの現象学の影響を受けました。帰国後は、母校の教授となり、哲学や社会学、歴史学など幅広い分野で活躍しました。
オルテガは、第一次世界大戦後のヨーロッパ社会の変動を鋭く観察し、「大衆社会の到来」という時代の潮流をいち早く見抜いた思想家の一人として知られています。彼は、伝統的な価値観やエリート主義が崩壊していく中で、大衆が政治、経済、文化などあらゆる領域で台頭し、社会に大きな影響を与えるようになっていくことを予見していました。
「大衆の反逆」の概要
オルテガの主著『大衆の反逆』(La rebelión de las masas)は、1929年から1930年にかけて新聞に掲載された論考をまとめたもので、1930年に書籍として出版されました。この著作は、当時のスペインだけでなく、ヨーロッパ全体で大きな反響を呼び、現在でも広く読まれています。
オルテガは、本書の中で、「専門家の没落」と「大衆人の台頭」という二つの現象を指摘し、現代社会を特徴づける「ハイパーデモクラシー」(過剰な民主主義)の危険性を鋭く批判しました。彼は、「大衆人」を、自己中心的で、教養や理性に欠け、専門家の意見を軽視する存在として定義し、彼らが社会のあらゆる領域に進出してくることで、文化の衰退や政治の混乱が引き起こされると警鐘を鳴らしました。
「大衆の反逆」への批判と影響
『大衆の反逆』は、出版当時から様々な批判にさらされてきました。特に、オルテガの大衆に対するエリート主義的な視点や、民主主義に対する悲観的な見方は、多くの論者から批判の対象となりました。
しかし、オルテガの思想は、その後の社会思想や政治思想に大きな影響を与え、現代社会における大衆社会、ポピュリズム、専門家と市民の関係などを考える上で、重要な視点を提供しています。今日でも、オルテガの思想は、現代社会の抱える問題を理解する上で重要な示唆を与えてくれるものとして、改めて注目されています。