オリーンの貿易理論「地域および国際貿易」の案内
貿易理論の背景
国際貿易の理論を説明する古典的な学説には、アダム・スミスの絶対優位説と、デヴィッド・リカードの比較優位説があります。絶対優位説は、ある国が他の国に比べて、より少ない労力で財を生産できる場合、その財の生産に絶対優位性を持つと主張します。一方、比較優位説は、たとえある国が全ての財の生産において絶対優位性を持っていたとしても、各国がそれぞれ最も得意とする財を専門的に生産し、貿易を行うことで、互いに利益を得られると主張します。
ヘクシャー=オリーンの定理
スウェーデンの経済学者エリ・ヘクシャーと、その弟子であるベルティル・オリーンは、リカードの比較優位説を発展させ、1933年に「地域および国際貿易」を出版しました。彼らは、国際貿易の比較優位の原因は、各国に存在する生産要素の賦存量の差にあると説明しました。これがヘクシャー=オリーンの定理(Heckscher-Ohlin theorem、HO定理)と呼ばれるものです。
HO定理は、労働と資本という2つの生産要素を考えます。労働集約的な財とは、その生産に多くの労働力を必要とする財です。資本集約的な財とは、その生産に多くの資本を必要とする財です。HO定理は、労働が豊富な国は労働集約的な財の生産に比較優位を持ち、資本が豊富な国は資本集約的な財の生産に比較優位を持つと主張します。
ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンの定理
HO定理は、アメリカの経済学者ポール・サミュエルソンによってさらに発展させられ、ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンの定理(Heckscher-Ohlin-Samuelson theorem、HOS定理)と呼ばれるようになりました。HOS定理は、国際貿易によって財の価格が均等化すると、生産要素の価格も国際的に均等化すると主張します。
「地域および国際貿易」の内容
オリーンの「地域および国際貿易」では、HO定理を基に、国際貿易の様々な側面が分析されています。例えば、関税や輸送費などの貿易障壁が国際貿易に与える影響、国際貿易と国際的な所得分配の関係などが議論されています。また、この著書では、地域経済学の分析にもHO定理が応用されています。
オリーンの貿易理論の影響
オリーンの貿易理論は、国際貿易の理論に大きな影響を与え、その後の国際経済学の発展に大きく貢献しました。HO定理は、今日でも国際貿易を理解するための基本的な枠組みとして広く受け入れられています。しかし、HO定理はいくつかの仮定に基づいており、現実の国際貿易を完全に説明できるわけではありません。例えば、HO定理は、同一の技術を用いて生産が行われることを仮定していますが、現実には技術格差が存在します。