## エールリヒの法社会学基礎論の話法
### 1. エールリヒの議論の構成:帰納と演繹の往還
エールリヒの議論は、具体的な事例研究から一般的な法則や概念へと導き出す帰納的な手法と、一般的な理論に基づいて具体的な現象を説明する演繹的な手法を組み合わせた、複雑な構造を持っています。
例えば、『法社会学基礎論』では、まず、古代ローマ法やゲルマン法、近代イギリス法など、多様な時代や地域の法現象を詳細に分析します。これは、個別具体的な事例を積み重ねることで、普遍的な法の原理や発展法則を見出そうとする帰納的なアプローチと言えます。
その一方で、エールリヒは、「社会生活における事実としての法」や「法の二重性」といった独自の理論的概念を提示し、それを基に具体的な法現象を解釈しようと試みています。これは、一般的な理論枠組みを用いて個別具体的な現象を説明する演繹的なアプローチと言えます。
### 2. 比較法的手法の活用
エールリヒは、自らの主張を展開する上で、比較法的な手法を積極的に活用しています。 異なる時代や地域の法体系を比較分析することによって、それぞれの法体系の特性や普遍的な法の発展段階を明らかにしようと試みています。
例えば、古代ローマ法とゲルマン法を比較する際には、前者を「法の形式主義」を特徴とする法体系、後者を「法の社会性」を重視する法体系として対比的に捉え、それぞれの長所と短所を分析しています。
このような比較法的な分析を通して、エールリヒは、特定の時代や地域に限定されない、普遍的な法の原理や発展法則を見出そうとしています。
### 3. 歴史的な視点の重視
エールリヒは、法を静的な規則の体系として捉えるのではなく、社会の変化と共に発展していく動的な現象として捉えています。そのため、法を理解するためには、その歴史的な発展過程を辿ることが不可欠であると主張しています。
例えば、『法社会学基礎論』では、原始社会における慣習法から近代国家における制定法に至るまで、法の発生と発展の歴史を詳細にたどっています。
このような歴史的な視点を通して、エールリヒは、法が社会構造や経済状況、文化・道徳観など、様々な社会的な要因の影響を受けながら変化してきたことを明らかにしようと試みています。
### 4. 社会学的な分析視角
エールリヒは、法を単なる国家の命令や裁判所の判決として捉えるのではなく、社会生活における事実、すなわち社会における人々の相互作用から生じる秩序として捉えています。
そのため、法を理解するためには、社会構造や社会関係、人々の行動様式など、社会学的な分析視角が不可欠であると主張しています。
例えば、『法社会学基礎論』では、法の形成や変容に影響を与える社会的な要因として、経済活動、社会階層、職業集団、家族関係など、様々な要素を挙げて分析しています。
### 5. 多様な資料の活用
エールリヒは、法典や判例などの法的資料だけでなく、文学作品、歴史書、統計資料、民族誌など、多様な資料を活用して、法現象を分析しています。
これは、法が社会生活のあらゆる側面と密接に関係しているというエールリヒの思想を反映したものであり、法を理解するためには、法以外の分野に関する知識も必要であることを示唆しています。
例えば、『法社会学基礎論』では、シェイクスピアの戯曲やゲーテの小説などを引用しながら、当時の社会における法意識や道徳観を分析しています。