## エールリヒの法社会学基礎論に関連する歴史上の事件
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19世紀末から20世紀初頭の社会変動
オイゲン・エールリヒが1913年に『法社会学の基礎概念』を著した19世紀末から20世紀初頭にかけてのヨーロッパは、社会構造や人々の価値観が大きく変動した時代でした。産業革命の進展に伴い、都市部への人口集中、資本主義経済の進展、それに伴う貧富の格差の拡大、労働問題、社会主義運動の高まりなど、社会は不安定化し、伝統的な社会規範や法的秩序は揺らいでいました。
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伝統的な法学への批判
このような社会状況の中で、エールリヒは、当時の支配的な法学説であった、「法は国家によって制定されるもの」とする国家中心主義的な法 positivism(法実証主義)を批判しました。法実証主義は、法の妥当性を国家の権威のみに求め、社会における法の現実や機能を軽視していました。
エールリヒは、法は社会生活から生まれ、社会生活を秩序付けるために存在すると考えました。法は国家によって制定されるだけでなく、社会における慣習、取引、団体内部の規則など、様々な形態で存在し、社会生活を規律していると考えたのです。
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「生ける法」としての法
エールリヒは、社会生活の中で実際に人々を拘束している規範を「生ける法」(living law)と呼びました。生ける法は、国家が制定する法よりも、社会における現実の行動規範として大きな影響力を持つと彼は考えました。そして、法社会学の課題は、この生ける法を把握し、その実態を明らかにすることにあると主張しました。
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法社会学の提唱
エールリヒは、法を社会現象として捉え、社会構造や社会変動との関連の中で、法の生成、機能、効果を経験的に研究する学問としての「法社会学」を提唱しました。彼の法社会学は、それまでの形而上学的な法哲学や、国家中心主義的な法実証主義とは異なる、新しい法学の潮流を形成しました。
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現代社会への影響
エールリヒの法社会学は、現代社会においても重要な意味を持ち続けています。現代社会は、グローバリゼーション、情報化、多文化主義の進展など、かつてない程に複雑化・流動化しており、法は社会の変化に柔軟に対応していくことが求められています。
エールリヒの思想は、法を社会から切り離された固定的なものではなく、常に変化し続ける社会とともに発展していく動的なプロセスとして捉える視点を提供してくれます。