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エールリヒの法社会学基礎論と言語

## エールリヒの法社会学基礎論と言語

社会的事実としての法と法言語

オイゲン・エールリヒは、法社会学の founding fathers の一人で、1913年に出版された “Grundlegung der Soziologie des Rechts” (邦題:法社会学の基礎理論)において、社会に生きる人々の間の「生きた法」としての法を主張しました。エールリヒは、法典や判例といった国家が制定・運用する「法規範」中心主義的な法認識を批判し、社会の中に実存し、人々の行動を実際に規律しているものとしての「社会生活における法」を重視しました。

法の多層構造における言語

エールリヒは、法を、(1) 社会生活における法、(2) 法律家の法、(3) 国家の法、という三層構造で捉えました。(1) は社会集団の内部で生み出され、集団成員の行動を規律する法であり、(2) は裁判や法学教育などの法の実務と学問において用いられる法、(3) は国家が制定・強制する法です。

エールリヒによれば、言語はこれらの全ての層において重要な役割を果たします。社会生活における法は、口頭での約束や慣習、商取引における取引条項など、言語を通じて形成・伝達されます。法律家の法は、法典や判例、契約書などの法文書、そして法廷における弁論など、高度に専門化された言語によって運用されます。国家の法もまた、法令や条例といった言語によって表現されます。

言語の多義性と法の解釈

エールリヒは、言語が本質的に多義的なものであることを認識していました。同じ言葉でも、文脈や使用者の意図によって異なる意味を持つことがあります。この言語の多義性は、法の解釈において重要な問題となります。

例えば、ある契約条項の解釈をめぐって当事者間で争いが生じた場合、裁判所は、その条項が用いられている文脈、契約締結時の当事者の意図、一般的な取引慣行などを考慮して、その条項の意味を解釈しなければなりません。

法言語の形成と変容

エールリヒは、法言語が社会生活における相互作用を通じて形成され、変容していく動的なものであることを強調しました。新しい社会関係や紛争が生じるたびに、人々は新たな言葉を生み出したり、既存の言葉に新しい意味を与えたりすることで、法言語を変化させていきます。

例えば、インターネットの普及は、電子商取引や著作権、プライバシーなどに関する新たな法的問題を生み出し、それに伴って「電子署名」「デジタルコンテンツ」「個人情報」といった新しい法言語が生まれてきました。

法社会学における言語研究の重要性

エールリヒの法社会学は、法と言語の関係について考察する上で重要な視点を提供しています。法は、単なる抽象的な規則ではなく、社会生活の中で人々によって解釈され、運用されることによって初めて意味を持つものとなります。そして、その解釈と運用において、言語は不可欠な役割を果たしています。

エールリヒの思想は、後の法社会学者、法哲学者、法言語学者に大きな影響を与え、法と言語の関係についての研究を深化させる契機となりました。

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