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エーコの薔薇の名前の思想的背景

## エーコの薔薇の名前の思想的背景

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中世に対する深い知識と関心

ウンベルト・エーコは記号論の碩学であると同時に、中世史、特に中世の思想や文化に関する造詣の深さでも知られていました。「薔薇の名前」は、14世紀のイタリアの修道院を舞台に、写本をめぐる殺人事件とその謎解きを描いた歴史推理小説ですが、作品全体に中世に関する該博な知識が存分に活かされています。作中に登場する修道院の建築、修道士たちの生活、神学論争、写本の挿絵など、細部にわたる描写は、エーコの中世研究の成果を反映したものであり、読者をリアルな中世世界へと誘います。

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記号論と解釈の相対性

エーコは記号論の専門家として、記号の解釈の多義性や相対性に関心を抱いていました。「薔薇の名前」では、修道院内の事件を解き明かす手がかりとなるのが、写本の暗号や建築物の構造など、様々な記号です。主人公であるウィリアムは、これらの記号を読み解くことで事件の真相に迫っていきますが、その過程で記号の解釈が常に一つとは限らないことを示唆しています。作品全体を通して、客観的な真実は存在せず、解釈によって真実は変化しうるという、エーコの記号論に基づいた思想が反映されています。

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理性と信仰、異端と正統の対立

「薔薇の名前」は、中世における理性と信仰、異端と正統の対立をテーマの一つとしています。主人公ウィリアムは、スコラ哲学の代表格であるトマス・アクィナスの影響を受けた合理的な思考の持ち主として描かれています。彼は、信仰のみに頼らず、理性的な思考と観察によって事件の真相を解明しようとします。一方、修道院内には、異端審問官ベルナルド・グイのように、信仰を絶対視し、異端を排除しようとする人物も登場します。理性と信仰、異端と正統の対立は、作中の殺人事件の背景にも深く関わっており、読者に重い問いを投げかけています。

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