## エーコのボードリーノの表象
### 嘘と真実の境界を曖昧にする語り手
ボードリーノは、物語の語り手であり、歴史上の人物や出来事に自らを結びつけ、巧みな話術で読者を翻弄するトリックスターです。彼は、真実と虚構を自在に操り、歴史的事実と自作の物語を織り交ぜることで、読者を困惑と魅了の渦に巻き込みます。
ボードリーノの物語は、歴史書としての一見信憑性の高い体裁を保ちながらも、明らかに虚偽とわかる荒唐無稽なエピソードや超自然的な要素が散りばめられています。彼は、自らの嘘を正当化するために巧妙な論理と弁舌を駆使し、読者に「本当かもしれない」と思わせるだけの説得力を持たせています。
### 中世の知識人と庶民の文化を体現する存在
ボードリーノは、12世紀に生きた貧しい農民の息子でありながら、持ち前の知性と機転、そして幸運に恵まれ、様々な文化や知識に触れる機会を得ます。彼は、修道院でラテン語や神学を学び、コンスタンティノープルでは東洋の文化や言語に触れます。
ボードリーノの物語は、中世ヨーロッパの社会、文化、宗教、政治などを、彼の視点を通して多層的に描き出しています。彼は、知識人としての教養と庶民としての現実的な感覚を併せ持ち、歴史の表舞台に登場する皇帝や教皇から、市井の人々まで、あらゆる階層の人々と関わり、彼らの思考や行動に影響を与えます。
### 歴史と物語の創造における人間の役割を問う象徴
ボードリーノは、歴史的事実を改竄し、自らの虚構を歴史に挿入しようと試みます。彼の物語は、歴史とは何か、真実は何か、物語はどのように作られるのかという根源的な問いを読者に突きつけます。
ボードリーノの虚言癖は、歴史というものが、常に客観的な事実の記録ではなく、語り手によって解釈され、脚色されるものであることを暗示しています。彼の存在は、歴史と物語の境界を曖昧にし、人間の想像力と創造力が持つ力を浮き彫りにします。