## エーコのボードリーノの比喩表現
### 嘘と物語の境界線を探るボードリーノの比喩
ウンベルト・エーコの小説『ボードリーノ』は、歴史とフィクション、真実と虚偽が複雑に絡み合った物語です。その中心に位置するのが、主人公ボードリーノの卓越した話術と、そこから生み出される数々の比喩表現です。ボードリーノは、架空と現実、真実と虚構を自在に行き来しながら、歴史を語り、伝説を創造し、自己を偽装していきます。彼の言葉は、比喩というレンズを通して現実を歪め、新たな意味を創出する力を持っています。
### 歴史の捏造と自己欺瞞のメタファーとしての「偽文書」
ボードリーノは、歴史を自在に操る「偽文書職人」として描かれています。彼が作り出す偽文書は、単なる嘘ではなく、彼自身の願望や欲望、そして歴史に対する皮肉な視点を反映した、一種の創作活動と言えます。
例えば、彼が捏造した「フレデリック Barbarossa の手紙」は、権力者たちの野望や策略を風刺すると同時に、歴史がいかに容易に操作され、改ざんされ得るかを暗示しています。この偽文書は、歴史の不確実性と、真実に対する相対的な視点を浮き彫りにするメタファーとして機能しています。
### 東方への憧憬と異文化理解の象徴としての「 unicornio 」
ボードリーノの物語には、しばしば東洋の神秘的な生物や文化が登場します。その中でも特に印象的なのが、「 unicornio 」(一角獣)です。 西洋では純潔の象徴とされる unicornio は、ボードリーノの物語では、東洋の叡智や神秘への憧憬を体現する存在として描かれています。
ボードリーノは、 unicornio の角にはあらゆる毒を浄化する力があると信じ、それを探し求める旅に出ます。この旅は、未知の世界への冒険であると同時に、真実を追い求めるボードリーノ自身の内面的な旅を象徴しています。
### 言語の魔術と現実創造のツールとしての「言葉遊び」
ボードリーノの比喩表現の特徴の一つに、言葉遊びの多用が挙げられます。彼は、言葉の持つ多義性や音韻の類似性を巧みに利用し、現実を歪め、新たな意味を創造していきます。
例えば、彼は「 papa 」(教皇)と「 papavero 」(ヒナゲシ)を掛けて、教皇庁の権力と堕落を皮肉ったり、「 orto 」(菜園)と「 ortografia 」(正書法)を結びつけて、言語の秩序と混乱を対比させたりしています。
ボードリーノにとって、言葉は単なるコミュニケーションの道具ではなく、世界を解釈し、創造するための強力な武器なのです。