エーコのボードリーノに影響を与えた本
ル・リアン・ド・ロミュー
ウンベルト・エーコの小説『ボードリーノ』は、歴史的事実、フィクション、メタフィクションが複雑に絡み合った作品であり、その中心には、狡猾でありながら愛すべき語り手であるボードリーノがいます。生まれながらの嘘つきで、物語を語る才能に恵まれたボードリーノは、1204年のコンスタンティノープル略奪など、歴史的な出来事の目撃者として自らを描写し、読者を魅了します。しかし、彼の物語は誇張、作り話、そしてあからさまな嘘が散りばめられており、何が真実で何が作り話なのかを読者は常に疑問に思うことになります。この歴史とフィクションの曖昧な境界線、そして物語の力こそが、『ボードリーノ』を特徴付ける要素であり、17世紀の風刺的な歴史書『アストロエア』との深い結びつきを示唆しています。
1618年に出版された『アストロエア』は、フランスの作家オノレ・デュルフェが、フランス王アンリ4世の宮廷生活を風刺的に描いたものです。デュルフェは「メレシ」という筆名で執筆し、当時の政治的陰謀、社会的スキャンダル、宮廷人の道化ぶりを痛烈に風刺しました。この本は、登場人物を実名で登場させた大胆さと、権力者の虚偽を暴露したことで物議を醸し、たちまちベストセラーとなりました。しかし、その辛辣な内容はまた、デュルフェに多くの敵対者を生み出し、最終的に彼は謎の死を遂げました。これは、彼の扇動的な著作と関係があると広く信じられています。
表面上、『ボードリーノ』と『アストロエア』は設定も文体も大きく異なる作品のように思えるかもしれません。しかし、より深く掘り下げていくと、これらの作品を結びつける興味深い類似点が見えてきます。エーコ自身、『アストロエア』への傾倒を認め、それが『ボードリーノ』の創作に影響を与えたことを認めています。特に影響を受けたのは、『アストロエア』における真実とフィクションの巧みな融合です。デュルフェは、風刺のベールの下に、当時のフランス宮廷の内情に関する貴重な洞察を提供し、歴史的事実とフィクションを曖昧にしています。
同様に、『ボードリーノ』も、歴史的事実とボードリーノの作り話が織りなすタペストリーであり、読者は何が真実で何が作り話なのかを見極めようと常に揺り動かされます。例えば、ボードリーノは、自分こそが偽造文書「コンスタンティヌスの寄進状」の真の作者であると主張しています。この文書は、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世がローマ教皇に西ローマ帝国の支配権を与えたとされるもので、何世紀にもわたって教皇の権力の根拠となってきました。ボードリーノはこの歴史的に重要な文書の作者であると主張することで、歴史的事実の創作における物語の力を実証しています。
さらに、『アストロエア』と『ボードリーノ』の両作品に共通するのは、権力に対する風刺的な視線です。デュルフェは『アストロエア』で、フランス宮廷の腐敗、偽善、権力乱用を痛烈に風刺しました。同様に、エーコは『ボードリーノ』で、権力、権威、歴史の物語を操作する人々を風刺しています。例えば、ボードリーノとその仲間たちは、神の王国を発見し、その支配者を騙して有利な条約を結ぶという大胆な計画を企てます。このエピソードは、権力に対する風刺的な解説として解釈でき、野心、欺瞞、人間の愚かさを露呈しています。
さらに、『ボードリーノ』と『アストロエア』の両作品は、真実の主観性と歴史の解釈における物語の力を探求しています。デュルフェの『アストロエア』では、歴史は固定されたものではなく、むしろ権力のある者の視点や、それを記録した者の主観的な解釈によって形作られる流動的な物語として描かれています。同様に、エーコは『ボードリーノ』で、歴史に対する曖昧で多面的な見方を提示し、物語の主観性と、客観的な真実を確立することの難しさを強調しています。読者は、歴史的事実を明らかにしようと努めるのではなく、さまざまな視点を検討し、信頼できない語り手の影響力を認識することが求められています。
結論として、『アストロエア』は『ボードリーノ』の創作に大きな影響を与えたと言えます。真実とフィクションの巧みな融合、権力に対する風刺的な視点、真実の主観性と歴史の解釈における物語の力の探求という共通のテーマを通じて、これらの2つの作品は、何世紀にもわたって読者を魅了し、挑発し続けてきた文学、歴史、権力の複雑な関係性を浮き彫りにしています。