# エーコのバウドリーノを深く理解するための背景知識
中世ヨーロッパの歴史的背景
バウドリーノの物語は、12世紀後半から13世紀前半のヨーロッパを舞台としています。この時期は、十字戦争、教皇権と世俗権力の対立、都市の成長、大学の発展など、激動の時代でした。
* **十字軍**: イスラム教徒から聖地エルサレムを奪還することを目的とした十字軍は、1096年から1291年にかけて断続的に行われました。バウドリーノの物語は、第4回十字軍(1202-1204年)のコンスタンティノープル陥落を重要な背景としています。この十字軍は、本来の目的であったエルサレム奪還を放棄し、キリスト教徒であるはずの東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを攻撃・占領するという、歴史的にも大きな転換点となった出来事でした。
* **教皇権と世俗権力の対立**: 中世ヨーロッパでは、ローマ教皇と皇帝、国王などの世俗権力者が主導権を争っていました。この対立は、バウドリーノの物語にも影を落としており、教皇特使や皇帝フリードリヒ1世などの実在の人物が登場します。
* **都市の成長**: 12世紀以降、ヨーロッパでは商業が発展し、都市が大きく成長しました。都市は、教会や貴族の支配から自立し、独自の自治を獲得していくようになります。バウドリーノの出身地であるアレッサンドリアも、この時期に成長した都市のひとつです。
* **大学の発展**: 12世紀には、ボローニャ大学やパリ大学など、ヨーロッパ各地で大学が設立されました。大学では、神学、法学、医学などの学問が研究され、知識人層が形成されました。バウドリーノは、パリ大学で学んだことになっています。
中世の思想と文化
バウドリーノの物語は、中世ヨーロッパの思想や文化を深く反映しています。特に、以下のような要素が重要です。
* **キリスト教**: 中世ヨーロッパは、キリスト教が支配的な社会でした。人々の生活は、教会の教えや儀式に深く結びついていました。バウドリーノの物語にも、聖人崇拝、聖遺物信仰、異端審問など、キリスト教に関連する要素が数多く登場します。
* **騎士道**: 騎士道は、中世ヨーロッパの貴族階級に生まれた倫理規範です。騎士は、勇気、忠誠心、敬虔さなどを重んじ、弱者を助け、不正と戦うことを理想としました。バウドリーノの物語には、騎士道物語の影響が色濃く見られます。
* **錬金術**: 錬金術は、卑金属を金に変えたり、不老不死の薬を作ったりすることを目指した学問です。中世ヨーロッパでは、錬金術は広く行われており、多くの知識人が錬金術の研究に没頭しました。バウドリーノの物語にも、錬金術師や錬金術の実験が登場します。
* **怪物**: 中世ヨーロッパの人々は、ドラゴン、ユニコーン、巨人など、様々な怪物がいると信じていました。これらの怪物は、しばしば旅行記や動物寓意譚に登場し、人々の想像力を掻き立てました。バウドリーノの物語にも、さまざまな怪物が登場し、物語に幻想的な雰囲気を与えています。
中世における文書と偽文書
バウドリーノは、文書の偽造に長けた人物として描かれています。中世ヨーロッパでは、文書は権力や所有権の重要な根拠でした。そのため、文書の偽造は頻繁に行われていました。
* **歴史文書の偽造**: 中世ヨーロッパでは、過去の出来事を正当化するために、歴史文書が偽造されることがありました。たとえば、教会や修道院は、自分たちの土地や特権の正当性を主張するために、古い文書を偽造することがありました。
* **聖遺物に関する文書の偽造**: 聖遺物は、聖人やキリストにゆかりのある物で、中世ヨーロッパでは広く信仰されていました。聖遺物を所有することは、教会や修道院にとって大きな名誉であり、利益をもたらしました。そのため、聖遺物の真偽を証明する文書が偽造されることもありました。
バウドリーノは、これらの文書偽造の手法を熟知しており、物語の中で様々な偽文書を作成します。彼の偽造行為は、中世ヨーロッパにおける文書の重要性と、その裏側に潜む権力と欲望を浮き彫りにしています。
中世の言語と文学
バウドリーノの物語は、中世ヨーロッパの言語と文学の影響を受けています。
* **ラテン語**: ラテン語は、中世ヨーロッパにおける学問や教会の公用語でした。バウドリーノは、ラテン語に通じており、物語の中でラテン語の文書を読んだり書いたりします。
* **騎士道物語**: 騎士道物語は、騎士の武勇伝や恋愛譚などを描いた物語です。アーサー王物語やローランの歌などが有名です。バウドリーノの物語にも、騎士道物語の影響が強く見られます。
* **旅行記**: 中世ヨーロッパでは、マルコ・ポーロの東方見聞録など、様々な旅行記が書かれました。これらの旅行記は、人々に世界の広さと多様性を伝え、想像力を刺激しました。バウドリーノの物語も、旅行記の形式を借りて書かれています。
* **動物寓意譚**: 動物寓意譚は、動物を主人公にした寓話です。イソップ物語などが有名です。動物寓意譚は、動物の行動を通して、人間の道徳や社会を風刺的に描いています。バウドリーノの物語にも、動物寓意譚の影響が見られます。
これらの背景知識を踏まえることで、エーコのバウドリーノをより深く理解し、その複雑な物語世界を堪能することができるでしょう。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。