## エンゲルスの空想から科学への対称性
エンゲルスが本書で主張したかったこと
エンゲルスは「空想から科学へ」の中で、社会主義が空想的なユートピア思想から発展し、唯物史観に基づいた科学的な社会主義へと進化した過程を論じました。彼は、初期の社会主義思想家であるサン=シモン、フーリエ、オーウェンなどを「空想的社会主義者」と位置づけ、彼らの思想が持つ限界を指摘しています。
空想的社会主義者たちは、理想的な社会のあり方を構想し、その実現を訴えましたが、社会変革の具体的な方法や、その理論的根拠を明確に示すことはできませんでした。彼らは、理性や道徳、博愛といった抽象的な概念に訴えかけることで社会を変革しようとしましたが、当時の社会構造や経済システムを根本的に変革するには至りませんでした。
一方、マルクスとエンゲルスが提唱した科学的社会主義は、唯物史観に基づき、社会の発展法則を歴史的な唯物論の観点から解明しようとしました。彼らは、生産力と生産関係の矛盾が歴史発展の原動力であると主張し、資本主義社会における資本家階級と労働者階級の対立が必然的に社会主義革命を引き起こすと予見しました。
エンゲルスは、「空想から科学へ」において、科学的社会主義が空想的社会主義の単なる延長線上にあるのではなく、質的に異なるものであることを強調しています。彼は、科学的社会主義が歴史と社会の科学的な分析に基づいた、より現実的で実践的な社会変革理論であると主張しました。
本書に見られる対称性
「空想から科学へ」は、そのタイトルが示すように、空想的社会主義と科学的社会主義という対照的な二つの概念を中心に構成されています。エンゲルスは、この二つの概念を対比させることで、科学的社会主義の優位性を際立たせようとしました。
具体的には、エンゲルスは空想的社会主義の特徴として、理想主義、道徳主義、階級闘争の軽視などを挙げ、科学的社会主義の特徴として、唯物論、科学性、階級闘争の重視などを挙げています。彼は、これらの対照的な特徴を比較することで、科学的社会主義がより現実的で実践的な社会変革理論であることを主張しました。
また、「空想から科学へ」は、歴史的な視点からも対称性を有しています。エンゲルスは、空想的社会主義を資本主義社会の初期段階に現れた思想潮流として位置づけ、科学的社会主義を資本主義社会の成熟段階に現れた思想潮流として位置づけています。彼は、歴史の発展段階に応じて、社会主義思想も進化してきたことを示唆しています。