エンゲルスの空想から科学へ
エンゲルスの「空想から科学へ」における話法
エンゲルスは「空想から科学へ」の中で、社会主義の発展を「空想」から「科学」への移行として描いています。この過程を説明するために、エンゲルスはいくつかの重要な話法を用いています。
１. 対比と発展
エンゲルスは、初期の社会主義思想（サン＝シモン、フーリエ、オーウェンなど）を「空想的な」社会主義として位置づけ、それらを「科学的な」社会主義と対比させています。「空想的」社会主義は、社会変革への熱意と理想主義に満ちているものの、現実的な分析や実現可能な方法論を欠いているとされます。一方、「科学的な」社会主義は、唯物史観に基づき、資本主義社会の構造と矛盾を分析し、その必然的な崩壊と社会主義への移行を主張します。
エンゲルスはこの対比を通して、社会主義が単なる理想や願望ではなく、歴史的発展の必然的な結果であることを強調しています。彼は、社会主義思想の系譜を辿ることで、「空想」から「科学」への進歩を描き出し、読者に社会主義の必然性と勝利を確信させようと試みていると言えるでしょう。
２. 歴史的唯物論
エンゲルスは、マルクスと共に発展させた唯物史観を駆使し、社会主義の必然性を論じています。唯物史観は、歴史を物質的な生産様式と、それに基づく階級闘争の歴史として捉えます。エンゲルスは、資本主義社会における生産力と生産関係の矛盾を分析し、資本主義が必然的に崩壊し、より高度な生産様式である社会主義に取って代わられると主張しています。
彼は、唯物史観に基づいた歴史分析を通じて、社会主義を歴史的必然として提示し、読者にその正当性を理解させようと試みていると考えられます。
３. 科学的論調
「空想から科学へ」というタイトルからも明らかなように、エンゲルスはこの著作において科学的な論調を強く打ち出しています。彼は、客観的な分析、論理的な推論、歴史的事実の提示などを重視し、社会主義が単なる理想や空想ではなく、科学的な根拠に基づいた主張であることを強調しています。
このような科学的論調は、当時の知識人層に対して説得力を持つものでした。19世紀後半は科学主義が台頭し、科学こそが社会問題を解決する手段だと考えられていた時代背景もあり、エンゲルスは科学的な語り口を採用することで、社会主義の正当性をより強くアピールしようと試みたと言えるでしょう。