エリオットのミドルマーチから学ぶ時代性
19世紀イギリス社会の現実
ジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』は、19世紀半ばのイギリスを舞台に、地方都市ミドルマーチに住む人々の生活を描いた長編小説です。作者は鋭い観察眼と深い人間洞察力で、当時の社会の光と影を鮮やかに描き出しています。
階級社会の壁と葛藤
『ミドルマーチ』では、当時のイギリス社会に根強く残る階級制度が、人々の行動や人間関係に大きな影響を与えている様子が描かれています。主人公の1人であるドロシアは、裕福な貴族階級の出身ですが、社会貢献を志し、貧しい人々を救済するために、年老いた聖職者キャソボーンとの結婚を決意します。しかし、キャソボーンは学問の世界に閉じこもり、ドロシアの理想とはかけ離れた人物でした。結婚生活はドロシアにとって、大きな失望と苦悩をもたらします。
また、医師のリードゲートは、野心を持ってミドルマーチにやってきますが、上流階級の人々からはよそ者として扱われ、なかなか受け入れてもらえません。彼は、美しいが虚栄心の強いロザムンドと恋に落ち、結婚しますが、価値観の違いから夫婦関係は破綻へと向かっていきます。
このように、『ミドルマーチ』は、階級社会の壁が、人々の自由な選択を阻み、悲劇を生み出す様子を克明に描いています。
女性の社会進出と限界
19世紀のイギリスでは、女性の社会進出が徐々に進展していましたが、依然として男性中心の社会構造が根強く、女性たちは様々な制約に苦しんでいました。ドロシアは、知性と教養にあふれた女性ですが、当時の社会では、女性の役割は家庭を守ることに限定されており、彼女の社会貢献への情熱は、周囲からは奇異なものと見なされます。
ドロシアの妹セリアは、姉とは対照的に、結婚して家庭を持つことに喜びを見出す、当時の一般的な女性像として描かれています。しかし、セリアでさえ、夫との間で意見が対立した際には、自分の意見を主張することができず、最終的には夫の意向に従わざるを得ません。
エリオットは、『ミドルマーチ』を通して、女性の社会進出の兆しと、依然として残る限界を浮き彫りにしています。
産業革命の影響と社会の変化
19世紀のイギリスは、産業革命の真っただ中にあり、社会構造や人々の価値観は大きく変化しつつありました。ミドルマーチにも、鉄道の開通や工場の建設など、近代化の波が押し寄せてきます。
しかし、『ミドルマーチ』では、新しい時代への期待感よりも、むしろ伝統的な価値観との軋轢や、経済的な格差の拡大といった負の側面が強調して描かれています。たとえば、ブルック氏の事業失敗や、ヴィンシー家の没落は、産業革命の影で、多くの人々が経済的な苦境に立たされた現実を象徴しています。
エリオットは、『ミドルマーチ』を通して、産業革命がもたらした光と影を冷静な視点で捉え、社会の変化に翻弄される人々の姿を描き出しています。