## エリアーデの聖と俗に匹敵する本
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ジェームズ・ジョージ・フレイザー『金枝篇』
イギリスの人類学者ジェームズ・ジョージ・フレイザーの著した『金枝篇』(The Golden Bough: A Study in Magic and Religion)は、1890年に初版が刊行され、その後も改訂を重ねながら1915年までに全12巻にも及ぶ大著となりました。本書は、古代から世界各地に広がる神話や儀礼を比較宗教学や文化人類学といった学際的な視点から分析し、人類の思考や文化の進化の過程を解き明かそうとした記念碑的な作品です。
フレイザーは、世界中の神話や儀礼の中に共通して見られるモチーフやパターンに着目し、それらを「呪術」という概念で説明しようと試みました。彼によれば、呪術とは、自然界に存在すると考えられていた神秘的な力や法則を、模倣や接触といった方法で操作することによって、人間が望む結果を得ようとする試みです。
フレイザーは、呪術的な思考が、やがて宗教へと発展し、最終的には科学へと進化していくという、人類の思考の進歩の過程を提示しました。彼の主張は、その後の学問分野に多大な影響を与えましたが、一方で、その進化主義的な視点や、ヨーロッパ中心主義的な偏りに対しては、多くの批判も寄せられています。
『金枝篇』は、その膨大な情報量と、文化や歴史を壮大なスケールで捉えようとする視点によって、20世紀初頭の学問の世界に大きな衝撃を与え、現在でもなお、神話学、宗教学、人類学など、様々な分野における古典として読み継がれています。