## エリアーデの聖と俗から学ぶ時代性
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聖なる空間
と
世俗化する世界
ミリエル・エリアーデの著書「聖と俗」は、古代から現代に至るまでの人間の宗教的経験を考察し、そこに通底する「聖なるもの」への希求と、近代におけるその衰退を描き出した記念碑的作品です。エリアーデによれば、伝統的な社会において、人間は世界を「聖なる空間」と「俗なる空間」の二元論的に捉えていました。聖なる空間は、神々や祖霊などの超越的な存在が顕現する場所であり、そこには秩序と意味、そして生命力が満ち溢れています。
一方、近代社会は、合理主義や科学技術の発展によって「脱聖化」が進み、世界から聖なるものが失われていく過程にあるとエリアーデは指摘します。 かつては宗教儀礼や神話によって聖なるものと結びついていた日常生活は、合理的な思考と効率性を重視する世俗的な価値観に支配されるようになり、人間は宇宙における自身の存在意義を見失いつつあるかのようです。
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現代における聖の喪失と再生
エリアーデは、近代社会における「聖の喪失」が、人間存在に深刻な危機をもたらすと警鐘を鳴らします。聖なるものの喪失は、人生に意味や目的を見いだせなくなる「ニヒリズム」や、自己中心的で無軌道な価値観を生み出す温床となりえます。
しかし、エリアーデは、現代社会における「聖の喪失」を不可逆的なものとは考えていません。彼は、芸術や文化、自然との触れ合いなど、現代社会の様々な領域においても、人間が「聖なるもの」を体験しうる可能性を見出しています。
現代社会において、伝統的な宗教の形骸化が叫ばれる一方で、スピリチュアリズムやニューエイジといった新しい形の精神性が注目を集めているのも、人間にとって「聖なるもの」への希求が根源的なものであることを示唆しているのかもしれません。