## ウルフのダロウェイ夫人を面白く読む方法
登場人物たちの内面に寄り添い、心の声に耳を傾ける
「ダロウェイ夫人」は、一見すると、ある夏の日にロンドンで開かれるパーティの準備をするクラリッサ・ダロウェイという上流階級の女性の何気ない一日を描いているように見えます。しかし、この小説の真髄は、登場人物たちの内面世界にあります。クラリッサだけでなく、第一次世界大戦で心に傷を負ったセプティマスや、クラリッサの初恋の相手ピーターなど、それぞれの登場人物が過去の記憶や心の葛藤を抱え、揺れ動く心情を吐露します。
ウルフは「意識の流れ」と呼ばれる技法を用い、登場人物たちの思考や感情を、切れ目なく、まるで川の流れのように描き出していきます。一見すると、とらえどころのない、ランダムに思える思考の断片も、注意深く読み進めていくと、登場人物たちの深層心理や、彼らを形作った過去の出来事、そして彼らが抱える不安や葛藤が見えてきます。
「時」の移り変わりと、記憶のフラッシュバックに注目する
小説全体を通して、「時」は重要なテーマの一つとなっています。時計の鐘の音や鳥のさえずりなど、五感を刺激する描写と共に、現在と過去が交錯し、登場人物たちの意識は現在と過去を行き来します。
例えば、クラリッサは現在のパーティの準備をしながらも、過去の記憶、特に若い頃に過ごした夏の日のことを鮮明に思い出します。その頃の初恋の感情、人生の選択、そして喪失の痛みなどが、現在の彼女の心情に影を落とします。
このように、一見するとランダムに挿入される過去の回想シーンも、登場人物の心情や行動の動機を理解する上で重要な役割を果たしています。
ロンドンという街の描写と、登場人物たちの内面との繋がりを読み解く
「ダロウェイ夫人」は、1920年代のロンドンを舞台としています。第一次世界大戦後の活気を取り戻しつつある街の喧騒、公園の風景、行き交う人々の描写は、単なる背景描写ではなく、登場人物たちの内面と密接に関係しています。
例えば、クラリッサが歩く賑やかなロンドンの街並みは、彼女の社交的な一面や、社会との繋がりを象徴している一方で、孤独感や閉塞感も同時に表現されています。
小説全体を通して、街の風景や音、匂いなどの描写に注目することで、登場人物たちの心情や、彼らが抱える葛藤をより深く理解することができます。
異なる登場人物たちの視点を通して、多角的な人間模様を楽しむ
「ダロウェイ夫人」は、クラリッサ・ダロウェイという一人の女性を軸に物語が展開されますが、セプティマスやピーターなど、他の登場人物たちの視点も織り交ぜられています。
それぞれの登場人物が独自の価値観や人生経験を持ち、クラリッサや他の登場人物たちに対して異なる感情を抱いています。彼らの視点を通して物語を追うことで、登場人物同士の関係性や、それぞれの心情がより立体的に浮かび上がってきます。
異なる視点から物語を読み解くことで、「ダロウェイ夫人」という作品世界の奥行きと複雑さをより深く味わうことができるでしょう。