## ウルフの『自分だけの部屋』の思想的背景
### 19世紀のイギリスにおける女性の社会的地位
19世紀のイギリスでは、女性の社会的地位は男性に比べて著しく低いものでした。法的には、女性は財産を所有することも、自由に職業を選ぶこともできず、夫に従属する立場に置かれていました。教育を受ける機会も限られており、大学進学も認められていませんでした。ヴィクトリア朝時代の厳格な道徳観念の下、女性は家庭を守る存在として、結婚と出産、子育てを当然の役割として期待されていました。
### 女性参政権運動の高まり
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、イギリスでは女性の社会進出を求める動きが活発化しました。特に、女性参政権運動は大きなうねりとなり、多くの女性たちが参政権を求めてデモや抗議活動に参加しました。しかし、これらの活動は必ずしも社会全体から支持されていたわけではなく、激しい反対運動や、運動家に対する弾圧なども行われました。
### モダニズム文学の影響
20世紀初頭、第一次世界大戦後のヨーロッパでは、それまでの伝統的な価値観や社会構造が大きく揺らぎ、新しい芸術や思想が次々と生まれました。文学においても、意識の流れや内的独白といった新しい技法を用いて、人間の深層心理や社会の矛盾を描こうとするモダニズム文学が台頭しました。ウルフもまた、モダニズム文学の影響を受けた作家の一人であり、『自分だけの部屋』においても、意識の流れの手法などを用いながら、女性の生きづらさや創作活動における困難を描き出しています。
### ウルフ自身の生い立ちと経験
ウルフは、裕福な知識階級の家庭に生まれ、幼い頃から読書に親しむなど恵まれた環境で育ちました。しかし、10代の頃に母親を亡くしたことをきっかけに神経を病み、その後も精神的な不安定さに悩まされ続けます。また、ウルフ自身も女性であるがゆえの生きづらさや、創作活動における困難を経験しており、これらの経験が『自分だけの部屋』の創作にも大きく影響を与えていると考えられます。