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ウエルズの世界史概観に影響を与えた本

ウエルズの世界史概観に影響を与えた本

T.H.ハクスリーの「進化論と倫理学」の影響

H.G.ウェルズの代表作「世界史概観」は、人類史を壮大なスケールで描き出した記念碑的作品として知られています。しかし、この作品は単なる歴史的事実の羅列ではなく、ウェルズ自身の歴史観、そして未来への展望が色濃く反映された独自の解釈に基づいています。その背景には、19世紀後半にイギリスで隆盛を極めた社会進化論の影響、特に生物学者T.H.ハクスリーが1893年に発表した「進化論と倫理学」の影響を無視することはできません。

ハクスリーは「ダーウィンの番犬」の異名を持つ進化論の熱心な支持者でしたが、「進化論と倫理学」では、自然界の進化と人間社会における倫理の関係について考察し、自然淘汰による「適者生存」の論理をそのまま人間社会に適用することに警鐘を鳴らしました。ハクスリーは、自然界では弱肉強食の生存競争が支配的である一方で、人間社会は倫理、道徳、協力によって成り立っているとし、この二つの間には明確な断絶があると主張しました。

ウェルズは、ハクスリーのこの主張に深く共鳴し、「世界史概観」においても、人間の歴史を、自然淘汰の論理が支配する「野蛮な」段階から、理性と協調に基づく「文明化」された段階へと進化していく過程として描きました。彼は、戦争や暴力、格差や差別といった問題は、人類がまだ進化の途上にあるがゆえの「未熟さ」の表れであり、教育や科学の発展を通じて克服すべき課題であると主張しました。

特に、「世界史概観」の特徴の一つである、歴史を俯瞰的に捉え、人類全体を一つの「種」として捉える視点は、ハクスリーの進化論の影響を強く受け継いでいます。ウェルズは、国家や民族といった枠組みを超え、人類全体が共通の未来に向かって進歩していくというビジョンを提示しました。

「世界史概観」は、ハクスリーの「進化論と倫理学」の影響を色濃く反映した作品であり、進化論的な歴史観に基づきながら、人間社会の進歩と倫理の重要性を説いた点で、当時の歴史観に大きな影響を与えました。

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