ウェーバーの支配の社会学の関連著作
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プラトン『国家』
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古代ギリシャの哲学者プラトンによって書かれた『国家』は、理想的な国家の形態について考察した対話篇です。
正義、徳、そして統治の性質についての深い考察が含まれています。
プラトンは、社会を構成する人々の資質の違いに基づいて、支配者・戦士・生産者という三つの階層からなる国家体制を構想しました。
それぞれの階層が自らの役割を果たすことで、調和と正義が実現されると考えました。
ウェーバーの支配の類型とプラトンの思想を直接結びつけることは困難ですが、『国家』における支配者層の特質や統治の正当性に関する議論は、ウェーバーが後世の社会学者に与えた影響と無関係ではありません。
特に、ウェーバーが伝統的支配の類型に含めるカリスマ的支配は、プラトンの哲人王の概念と類似性を持つと言えるでしょう。
カリスマ的支配は、英雄や預言者などが持つ超自然的、超日常的な資質に対する人々の服従によって成り立ちます。
プラトンの哲人王もまた、深い知恵と徳によって人々を導く存在として想定されており、カリスマ的支配の要素を内包していると言えるでしょう。
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マキアヴェリ『君主論』
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イタリア・ルネサンス期の政治思想家ニッコロ・マキアヴェリによって書かれた『君主論』は、君主がいかにして権力を獲得し、維持すべきかについて論じた書です。
君主の道徳よりも政治的効果を優先する現実主義的な政治観は、当時のキリスト教的な倫理観に衝撃を与えました。
『君主論』は、支配のあり方を冷徹な現実主義に基づいて分析しており、ウェーバーの支配の社会学にも通じるものがあります。
ウェーバーは、支配を「ある社会関係において、特定の命令が服従のチャンスを持つ確率」と定義しました。
これは、道徳や倫理ではなく、社会関係における力の現実的な作用に着目した考え方であり、マキアヴェリの現実主義と共通点が見られます。
また、マキアヴェリは、君主が権力を維持するためには、時には非情な手段も辞さない決断力が必要であると説きました。
これは、ウェーバーが近代官僚制の特徴として挙げた「非人格性」に通じる側面があります。
官僚制は、感情や情実を排し、合理的なルールに基づいて運営されるシステムであり、効率性と合理性を追求するあまり、冷酷な側面を持つこともあります。
マキアヴェリの君主論も、ウェーバーの官僚制論も、支配の現実と倫理との葛藤という重要な問題を提起していると言えるでしょう。
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ホッブズ『リヴァイアサン』
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イギリスの哲学者トーマス・ホッブズによって書かれた『リヴァイアサン』は、自然状態における人間の闘争状態を克服するために、絶対的な主権を持つ国家の必要性を論証した書です。
社会契約論の代表的な著作として知られています。
ホッブズは、国家が成立する以前の「自然状態」では、全ての人間が自由で平等であると同時に、絶え間ない恐怖と不安定さの中に置かれていると論じました。
この状態から脱却するため、人々は自らの権利の一部を主権者に譲渡し、その見返りとして安全と秩序を保障される「社会契約」を結ぶとしました。
そして、人々の安全と秩序を保障するために必要な権力は、絶対的なものでなければならないと主張しました。
ホッブズの絶対的な主権者論は、ウェーバーの支配論における「合法性」の概念と関連づけて理解することができます。
ウェーバーは、支配が安定して存続するためには、単なる暴力や恐怖による強制だけでなく、被支配者層から「正統なもの」として認められる「合法性」が必要であると指摘しました。
ホッブズの主権者は、社会契約によって人々から権力の行使を委託されており、その意味で合法性を有していると言えるでしょう。
これらの著作は、それぞれ異なる時代背景や思想的立場から書かれたものであり、ウェーバーの支配の社会学と完全に一致するわけではありません。
しかし、支配の概念、統治の正当性、権力のあり方など、共通のテーマを扱っており、ウェーバーの思想をより深く理解するための重要な参照点となるでしょう.