## ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の思想的背景
### 1. 19世紀末～20世紀初頭のドイツの知的状況
ウェーバーが活躍した19世紀末～20世紀初頭のドイツは、急速な産業革命と社会変動を経験しており、伝統的な価値観と近代的な価値観がせめぎ合う、思想的に非常に活発な時代でした。特に、以下の点が重要です。
* **歴史学派経済学との対峙:** 当時のドイツ経済学界は、歴史学派と呼ばれる、歴史的・文化的要因を重視する学派が主流でした。彼らは、経済現象を普遍的な法則によって説明しようとする古典派経済学を批判し、それぞれの国の歴史や文化に根ざした独自の経済体制を主張していました。ウェーバーは、歴史学派の主張する歴史的特殊性を重視する視点を受け継ぎつつも、彼らが軽視した普遍的な理論構築の必要性を主張しました。
* **マルクス主義の影響:** 当時のドイツでは、資本主義の矛盾を鋭く批判するマルクス主義が大きな影響力を持っていました。ウェーバーは、マルクス主義の唯物史観に批判的でありながらも、近代資本主義の特質を理解する上で、経済的な要因だけでなく、宗教や倫理といった観念的な要因も重要であることを認識していました。
* **新カント主義の影響:** 当時のドイツ哲学界では、カント哲学を現代的に解釈しようとする新カント主義が興隆していました。新カント主義は、客観的な認識の限界を強調し、価値判断や文化的な要因が人間の認識や行動に大きな影響を与えることを主張しました。ウェーバーは、新カント主義の思想から影響を受け、社会科学における価値判断の重要性や、客観的な認識の限界を認識していました。
### 2. ウェーバー自身の学問的背景
ウェーバーは、歴史学、経済学、法学、社会学など、多岐にわたる学問分野を学びました。
* **歴史学:** ウェーバーは、初期にはローマ法や中世都市の歴史を研究しており、歴史的な視点から社会現象を分析することに長けていました。
* **経済学:** ウェーバーは、経済学についても深い造詣を持っており、特に、当時のドイツ経済学界の主流であった歴史学派経済学の影響を受けていました。
* **社会学:** ウェーバーは、近代社会の複雑な構造を理解するために、新しい学問分野である社会学を積極的に導入しようとしました。彼は、社会現象を理解するためには、経済的な要因だけでなく、宗教、倫理、政治、文化など、様々な要因を総合的に考慮する必要があると考えていました。
これらの思想的背景や学問的背景から、ウェーバーは、近代資本主義の起源を宗教改革、特にプロテスタンティズムの倫理との関連で考察するという、当時としては非常に斬新な研究テーマに挑むことになりました。