## ウィルソンの社会生物学の世界
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ウィルソンの生い立ちと研究
エドワード・O・ウィルソン(Edward Osborne Wilson, 1929-2021)は、アメリカの生物学者、特にアリの研究で知られる昆虫学者、そして社会生物学と呼ばれる新しい学問分野の創始者として知られています。アラバマ州バーミンガムで生まれ、幼少期から自然に強い興味を示し、アリの観察に熱中しました。
ウィルソンはアラバマ大学で生物学を学び、その後ハーバード大学で博士号を取得しました。彼の初期の研究は、アリのコミュニケーション、生態学、社会構造に焦点を当てていました。彼は、アリが複雑な社会を形成し、分業、コミュニケーション、協力を通じてコロニーを維持していることを詳細に研究しました。
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社会生物学の提唱
ウィルソンは、1975年に出版した著書「社会生物学:新たな総合」の中で、動物の社会行動を進化生物学の観点から説明する「社会生物学」という新しい学問分野を提唱しました。彼は、動物の行動、特に社会行動は、自然選択によって形作られてきたと主張しました。
ウィルソンの社会生物学は、動物の行動を遺伝子、進化、生態学の観点から統合的に理解しようとするものでした。彼は、動物の行動の多くは、個体の生存と繁殖の成功、ひいては遺伝子の伝達に貢献するように進化してきたと主張しました。
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社会生物学の中心概念
ウィルソンの社会生物学の中心概念には、以下のものがあります。
* **包括適応度:** 個体の繁殖成功だけでなく、血縁者を通じて共有される遺伝子の伝達も考慮した適応度の概念。
* **血縁選択:** 血縁者に対する利他的行動が、共有遺伝子の伝達を通じて進化することを説明する理論。
* **親の投資:** 親が子の生存と繁殖に投資する時間、エネルギー、資源の配分。
* **性選択:** 異性獲得競争と配偶選択を通じて、特定の遺伝子や形質が進化することを説明する理論。
ウィルソンは、これらの概念を用いて、動物の社会行動の進化、例えば、利他的行動、攻撃行動、性行動、親子関係などを説明しようとしました。
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社会生物学への批判と論争
ウィルソンの社会生物学は、発表当初から大きな論争を巻き起こしました。特に、人間の行動にも遺伝子や進化の影響が及ぶという彼の主張は、多くの批判を浴びました。一部の批判者は、ウィルソンの社会生物学が生物学的決定論を助長し、人種差別や社会的不平等を正当化するために利用される可能性があると懸念しました。
ウィルソン自身は、人間の行動は遺伝子と環境の両方の影響を受けており、社会生物学は人間の行動を決定論的に説明するものではないと反論しました。しかし、社会生物学をめぐる論争は、その後も長く続きました.