## ウィルソンの社会生物学と時間
###
時間スケールと社会生物学
エドワード・O・ウィルソンが提唱した社会生物学は、動物の社会行動を進化生物学の視点から説明しようとする学問分野です。ウィルソンは、動物の社会行動は、自然選択によって形作られた適応戦略であると主張しました。
社会生物学では、行動を分析する際に、異なる時間スケールを考慮することが重要になります。
* ** proximate causation（至近要因）**: ある行動が、神経生理学的、発達生物学的、遺伝的にどのように制御されているかを説明します。これは、個体の生涯における比較的短い時間スケールを扱います。
* ** ultimate causation（究極要因）**: ある行動が、進化の過程でどのように、そしてなぜ選択されてきたのかを説明します。これは、進化の時間スケール、つまり非常に長い時間スケールを扱います。
ウィルソンは、社会生物学において、進化的な時間スケール、すなわち究極要因を重視しました。彼は、動物の社会行動は、その行動をとる個体の生存と繁殖の成功率を高めることによって、進化してきたと主張しました。
###
社会性進化における時間
社会生物学は、社会性の進化を理解するための強力な枠組みを提供します。社会性の進化は、時間をかけて段階的に起こると考えられており、各段階で新たな社会行動が出現します。
ウィルソンは、社会性進化の主要な段階として、以下の4つを挙げました。
1. ** solitary living（単独生活）**: 個体が単独で生活し、繁殖時以外は他の個体と相互作用しません。
2. ** subsociality（亜社会性）**: 親が子の世話をするなど、短期間の社会的な相互作用が見られます。
3. ** communal living（共同生活）**: 複数の個体が一緒に生活し、資源を共有しますが、共同繁殖は行いません。
4. ** eusociality（真社会性）**: 繁殖分業、世代重複、協同育児という3つの特徴を備えた、高度な社会性です。
これらの段階は、必ずしも直線的な進化の道筋を示すものではありませんが、社会性進化の時間的スケールと複雑さを理解する上で役立ちます。
###
時間と社会行動の柔軟性
社会行動は、遺伝的に決定されているだけでなく、環境要因の影響も受けます。社会生物学では、行動の可塑性、すなわち環境変化に対する行動の適応性を重視します。
行動の可塑性は、時間スケールと密接に関係しています。
* ** 短期的な可塑性**: 環境の変化に対する即座の行動変化。例えば、捕食者の出現に反応して隠れる行動などが挙げられます。
* ** 長期的な可塑性**: 環境の変化に対する、より長期的な行動変化。例えば、食糧不足が続く環境で生まれた個体は、体が小さくなるなど、形態や生理機能にも変化が生じることがあります。
社会生物学は、時間スケールという概念を用いることで、動物の社会行動の複雑さと進化の歴史を明らかにしようと試みています。