イプセンの幽霊の関連著作
社会問題劇の系譜
イプセンの『幽霊』は、19世紀後半のヨーロッパで隆盛した「社会問題劇」の代表作として位置付けられます。社会問題劇とは、その名の通り、当時の社会が抱えていた問題に鋭く切り込み、観客に問題提起を投げかけることを目的とした演劇のジャンルです。
『幽霊』が扱っているテーマは多岐に渡りますが、特に重要なのは「結婚の制度」「女性の地位」「性道徳」「宗教と社会」といった問題です。これらの問題は、19世紀後半のヨーロッパ社会において、大きな変化と混乱が生じている中で、人々の価値観を大きく揺さぶるものでした。
『幽霊』以前にも、社会問題を扱った作品は存在しました。例えば、フランスの劇作家アレクサンドル・デュマ・フィス(大デュマの息子)の『椿姫』(1852年)は、娼婦と青年の悲恋を通して、当時の社会道徳や階級社会の矛盾を描き出し、大きな反響を呼びました。
イプセンと自然主義演劇
イプセンは、しばしば「近代劇の父」と称されますが、それは彼がそれまでの演劇の形式や内容を大きく変革したからです。イプセン以前の演劇は、古典的な悲劇や喜劇、メロドラマなどが主流で、登場人物は貴族や王族といった上流階級の人物がほとんどでした。
しかし、イプセンは『幽霊』をはじめとする一連の作品において、ごく普通の家庭を舞台に、当時の社会問題と深く結びついた人間関係や心理を描写しました。また、登場人物の台詞は、それまでの演劇のような artificial なものではなく、より自然で日常的な言葉遣いが用いられています。このようなイプセンの作風は「自然主義演劇」と呼ばれ、ヨーロッパ中の劇作家に大きな影響を与えました。
イプセンの影響を受けた劇作家としては、ノルウェーのビョルンソン、スウェーデンのストリンドベリ、ロシアのチェーホフなどが挙げられます。彼らはそれぞれ独自の作風を持っていましたが、社会問題への関心や人間の心理描写を重視する点で、イプセンと共通しています。