## イプセンの幽霊の原点
イプセン自身の経験と社会問題
イプセンの戯曲には、しばしば作者自身の経験や社会問題が反映されていると言われています。「幽霊」も例外ではなく、当時の社会を覆っていた因習や偏見、偽善に対するイプセンの鋭い批判が込められています。
例えば、主人公であるアルヴィング夫人の苦悩は、当時の女性の抑圧された立場を象徴しています。夫の放蕩や病弱な息子との関係に苦しみながらも、社会的な体面を気にして真実を隠蔽し続ける彼女の姿は、当時の女性が置かれていた状況を如実に表しています。
また、本作では、梅毒という当時タブーとされていた病気が重要なテーマとして扱われています。この病気は、当時の道徳観と密接に関係しており、性道徳の乱れや隠蔽された罪の象徴として描かれています。
当時の演劇界の状況
「幽霊」が発表された19世紀後半は、ヨーロッパ演劇界においてリアリズム演劇が台頭してきた時代でした。それまでのロマン主義演劇のような、英雄的な人物や劇的な展開を中心とした作品とは異なり、リアリズム演劇は、日常生活や社会問題を題材とし、登場人物の心理描写に重点を置いた作品が主流となっていきました。
イプセンは、「人形の家」などの作品によってリアリズム演劇の先駆者として知られており、「幽霊」もまた、当時の社会問題や人間の深層心理を描いたリアリズム演劇の傑作として高く評価されています。