## イプセンのペール・ギュントの対称性
イプセンの戯曲「ペール・ギュント」は、その構成において顕著な対称性を示しています。
戯曲全体は大きく分けて前半と後半に分かれ、前半はペール・ギュントの放浪と冒険、後半は彼の帰郷と自己探求を描いています。この二つの部分は、時間軸上では数十年の隔たりがあるにもかかわらず、登場人物、場面、モチーフなどの対応関係によって密接に結びついています。
まず、登場人物の対応関係を見てみましょう。
前半に登場する山娘のソールヴェイグは、ペールの理想の女性像であり、後半では年老いたペールを献身的に看病する存在として再登場します。また、ペールに屈折した愛情を抱くイングリッドは、後半では裕福な農家の妻として登場し、ペールの変化を浮き彫りにします。このように、前半と後半で同じ登場人物が異なる状況下で再登場することで、ペールの成長と変化、そして彼を取り巻く世界の無常さが浮き彫りになります。
次に、場面の対応関係について考察します。
例えば、前半の山中の祝宴の場面は、後半のペールの帰郷祝賀会と対照的な関係にあります。前半では、ペールは自身の欲望のままに行動し、祝宴を混乱に陥れますが、後半では、彼は過去の過ちを悔い、周囲の人々に許しを請います。このように、同じようなシチュエーションが異なる文脈で描かれることで、ペールの内面的な変化が強調されます。
さらに、モチーフの対称性も重要な要素です。
特に、「ボタンの溶かし直し」のモチーフは、前半と後半を象徴的に結びつけます。前半でペールは、理想の女性を求めてボタンを溶かし続けますが、後半では、彼自身が「溶かされるべきボタン」として試練に立たされます。このモチーフを通して、自己中心的だったペールが、真の自己と向き合うようになる過程が象徴的に描かれます。
これらの対称的な構造は、単なる物語の反復を超えて、ペール・ギュントの内的葛藤と成長、そして人間の存在の本質についての深い洞察を与えてくれます。