## イプセンのペール・ギュントと人間
イプセンの描く人間像：自己欺瞞と現実逃避
イプセンの戯曲「ペール・ギュント」は、1867年に発表された作品で、主人公ペール・ギュントの波乱万丈な人生を通して、人間存在の本質に迫る壮大なドラマです。ペール・ギュントは、ノルウェーの農村を舞台に、虚言癖や自己中心的で無責任な性格が災いし、故郷を追われ、世界中を放浪することになります。彼は、富や名声、快楽を求めて、様々な経験をしますが、そのどれもが、彼の空想の世界に過ぎず、現実から目を背け続けているに過ぎません。
ペール・ギュントの行動原理は、自己中心的で衝動的な欲望に支配されており、その場しのぎの嘘や欺瞞を繰り返すことで、自分の都合の良いように現実を歪めていきます。彼は、自己欺瞞に陥り、自分自身を大きく見せようとするあまり、周囲の人々を傷つけ、裏切り、最終的には孤独な老後を迎えることになります。
「自分自身たれ」：自己実現の難しさ
「ペール・ギュント」の重要なテーマの一つに、「自己実現」があります。作中で、ペール・ギュントは、謎めいた「ボタン型男」から、「自分自身たれ」という謎めいた言葉を投げかけられます。これは、自己欺瞞に陥っているペール・ギュントに対する、厳しい戒めの言葉として解釈できます。
しかし、ペール・ギュントにとって、「自分自身」を見つけることは容易ではありませんでした。彼は、自己中心的で無責任な性格から抜け出せず、常に他人からの評価や賞賛を求め続けました。最終的に、彼は、自分の人生を振り返り、自分が何者であったのか、何を成し遂げたのかという問いを突きつけられます。
普遍的な人間の苦悩：アイデンティティの喪失
「ペール・ギュント」は、19世紀後半のノルウェー社会を舞台としていますが、そのテーマは時代を超えて、現代社会にも通じる普遍性を持ちます。現代社会は、情報化社会、グローバル化が進展し、人々は、かつてないほど多くの情報や選択肢に日々触れて生きています。その一方で、アイデンティティの喪失や、自己実現の難しさといった問題も深刻化しています。
「ペール・ギュント」は、私たちに、自己欺瞞の危険性や、自分自身と向き合うことの重要性を問いかけています。ペール・ギュントの失敗を通して、私たちは、真の幸福とは何か、自分らしく生きるためにはどうすれば良いのかを考えるきっかけを与えられるのではないでしょうか。