## イプセンのジョン・ガブリエル・ボーコマンを読む
イプセン晩年の傑作
「ジョン・ガブリエル・ボーコマン」は、ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンが1896年に発表した戯曲です。イプセン晩年の作品群に属し、「ロスメルスホルム」「ヘッダ・ガーブレル」「海の夫人」といった傑作と並び称されることの多い作品です。
閉塞的な屋敷と過去の罪
物語の舞台は、人里離れた屋敷です。かつて銀行頭取として権勢を誇ったものの、横領罪で投獄された過去を持つジョン・ガブリエル・ボーコマンは、8年間の服役を終えて屋敷に戻ってきます。しかし、彼は今もなお過去の栄光に囚われ、社会復帰を拒絶したまま、屋根裏部屋に引きこもって生きています。
屋敷には、ボーコマンの妻であるグンヒルドと、彼女の妹であり、かつてボーコマンと恋仲でもあったエラも暮らしています。ボーコマンの罪によって運命を狂わされた彼女たちは、それぞれの苦しみを抱えながら、閉塞的な屋敷の中で共同生活を送っています。
登場人物たちの複雑な関係性
「ジョン・ガブリエル・ボーコマン」は、登場人物たちの複雑な関係性と心理描写が見どころの一つです。ボーコマンは、過去の罪によって社会から孤立し、自らを正当化しようとしながらも、心の奥底では罪の意識にさいなまれています。
妻のグンヒルドは、夫の罪によって失った社会的地位と名誉を取り戻すことだけを望み、息子への愛情を利用してボーコマンを支配しようとします。
妹のエラは、かつてボーコマンと愛し合いながらも、姉との関係を優先して彼を諦めた過去を持ちます。ボーコマンの息子であるエルハルトは、両親の確執に巻き込まれながらも、自由を求めて旅立っていきます。
象徴的なモチーフとテーマ
作品には、雪に閉ざされた屋敷、屋根裏部屋、鉱山など、象徴的なモチーフが登場します。これらのモチーフは、登場人物たちの閉塞感や孤独、過去の罪の重圧などを表現しています。
また、「ジョン・ガブリエル・ボーコマン」は、罪と罰、贖罪、家族の崩壊、理想と現実の対立といった普遍的なテーマを扱っています。